DSGEによって推計される政府支出乗数の陥穽

という論文を少し前にEconomist's Viewが注目に値するとして紹介していた(原題は「A Pitfall with DSGE-Based, Estimated, Government Spending Multipliers」で、著者はトゥールーズ経済学院のPatrick Fèveaとフランス銀行のJulien Matheronb、Jean-Guillaume Sahucb;AEJ Macroeconomicsに近々に掲載予定との由)。


以下はその要旨。

This paper examines issues related to the estimation of the government spending multiplier (GSM) in a Dynamic Stochastic General Equilibrium context. We stress a potential source of bias in the GSM arising from the combination of Edgeworth complementarity between private consumption and government expenditures and endogenous government expenditures. Due to cross-equation restrictions, omitting the endogenous component of government policy at the estimation stage would lead an econometrician to underestimate the degree of Edgeworth complementarity and, consequently, the long-run GSM. An estimated version of our model with US postwar data shows that this bias matters quantitatively. The results prove to be robust to a number of perturbations.
(拙訳)
本稿では、DSGEにおいて政府支出乗数を推計することに関わる問題を調べている。ここで我々は、民間消費と政府支出のエッジワース補完性と内生的政府支出の組み合わせに起因して乗数にバイアスがもたらされる可能性を強調する。推計段階で政策の内生的要素を省略することは、方程式間の制約により、計量経済学者がエッジワース補完性の程度を過小評価し、それによって長期的な乗数も過小評価することにつながる。米国の戦後のデータを用いた我々のモデルの推計によれば、そのバイアスは定量的に問題となる水準である。ここで得られた結果は、数々の擾乱に対して頑健であった。


導入部では上記の話がもう少し詳しく解説されているが、それによると:

  • 政府支出が増加/減少すると民間消費の限界効用が上昇/低下する、という意味で両者の間にはエッジワース補完性が成立する。
  • また、政府支出には自動安定化装置としての反景気循環的な要素が内生的に含まれている。
  • 生産と政府支出の正の相関を生み出す際に、上記の2つは逆方向に働く。
    • エッジワース補完性は(政府支出の増加が人々の消費を促すので)相関を上昇させ、政策の反景気循環的要素は定義により相関を低下させる。
  • 従って、分析者が生産と政府支出の間の観測された相関パターンを説明しようとする時に、政策の反景気循環的な内生的要素を高く置いた場合には、エッジワース補完性も高めて相殺する必要が出てくる。乗数はエッジワース補完性と共に高まるので、それは高めの乗数の推計につながる。
  • 逆に、政策の内生的要素を省略した場合には、エッジワース補完性も低めとなり、低めの乗数の推計につながる。
  • 著者たちのベンチマークモデルでは、乗数は1.31となった。同じモデルで政策の内生的要素を省略した場合には、乗数は0.97となった。さらにエッジワース補完性を省略した場合には、乗数は0.5となった。