インターネットが技術革新を阻害している

SF作家のニール・スティーヴンスンがMITでの講演でそう述べたという。ジャスティン・フォックスの報告によると:

A hundred years from now, he said, we might look back on the late 20th and early 21st century and say, "It was an actively creative society. Then the Internet happened and everything got put on hold for a generation."
(拙訳)
今から百年後、20世紀末から21世紀初めを振り返って人々は次のように言うだろう、と彼は述べた。「それは活力ある創造的な社会だった。そこにインターネットが登場して、一世代もの間すべてが停滞してしまった」、と。


フォックスがリンクしたMIT Technology Review記事によると、スティーヴンスンは宇宙計画やその他の大規模プロジェクトが流行らなくなった近年の傾向を憂い、SF小説を通じてそうした状況に発破を掛けるべく、ヒエログリフ・プロジェクトなるものを発足させたとの由。そのプロジェクトでは、科学技術が明るい未来を拓くといった感じの(大時代的な!?)SF小説のアンソロジーの出版を目指すという。スティーヴンスン自身は、宇宙船を打ち上げるための高さ20キロの塔をテーマにした小説を書いているとのことである。


ティーヴンスンは、現在のビッグプロジェクトの停滞をもたらした要因として、インターネットのほかに以下の2つを挙げている。

  • 待てばもっと良い技術が出てくるだろう、という姿勢
    • ティーヴンスンの前述の小説では、そうした風潮に一石を投じるため、塔の建築材料は仮想的なナノチューブ素材などではなく、敢えて鋼鉄にしたという。
  • 保険に代表される非技術的要因
    • 新たな方法で宇宙船を打ち上げようとしても、保険の引き受け手がいない。
    • ティーヴンスンがMITの学生が大部分である聴衆に、誰かコードを書くのをやめて保険業界に行かないか、と呼び掛けたところ、乾いた笑いが返ってきた、と記事では描写している。


フォックスもスティーヴンスンの見方に同調し、タイラー・コーエンのTGSに話を結び付けている。そして、例えば(ここでコーエンと討論した)MITのErik Brynjolfssonは近年の生産性の改善を喧伝するが、彼の言う生産性の改善は組織に関する話に過ぎない、と斬って捨てている。組織やデジタルの話を超えて、実際のモノに関する話が必要なのだ、と強調した上で、フォックスは以下のような警句(毒?)を吐いている:

Or, to look at it another way, until the prime example of an innovative major corporation ceases to be Procter & Gamble, we probably aren't in a truly innovative era (Tide to Go is awesome, but it's not exactly the transistor).
(拙訳)
あるいは、別の見方をすれば、イノベーティブな大企業の代表例がプロクター&ギャンブルであり続ける限り、我々は真にイノベーティブな時代にいるとは言えないのだ([rakuten:b-dreamer:10003273:title]は素晴らしいが、トランジスターというわけではない)。