グレッグ君と愉快な仲間たち

政府間競争の必要性を訴えたマンキューのNYT論説記事が、かつてないほどあちこちで批判されている。以下はそれらの批判の取りあえずのまとめ(順不同)。

デロング
今度の大統領選挙は、政府が不公正の是正にまで乗り出すべきか否かを問う選挙だ、とマンキューは言うけれど、政府が社会保障を担うべきという点に疑問を持つ人はいない。というわけで、マンキューはこの記事でオバマに強力な支持を与えたわけだ。
Gavin Kennedy
アダム・スミスは見えざる手を市場や競争と結び付けたことは無い。その点でマンキューの記事は誤っている。
Josh Bivens
マンキューは自分の教科書の価格が完全に競争的な市場の需給だけで決まっているような顔をしているが、実際には政府の著作権法により守られている。
Tony Cookson
マンキューが挙げた教科書の市場は、競争が消費者の利益となるという点では不適切な例示。教科書の市場は、むしろ医薬品の市場に近い。というのは、
  1. 医薬品の採用を患者ではなく医者が決定するのと同様、教科書の採用は学生ではなく教授が決定する。
  2. 教授は教科書の代金を支払うわけではないため、価格よりは専ら質で採否を決め、学生の価格への反応は市場に不十分な形でしか反映されない。ちなみに医薬品については、患者も対価を払わない(第三者が主に負担する)。
  3. 査読と称して教授たちに教科書が送られるが、これは宣伝の一環に他ならない。場合によっては評価の対価が支払われることもある。ただし、その点では医者の役得の方が豪勢だが…。
ディーン・ベーカー
マンキューは再分配を槍玉に挙げているが、実際には上位層への所得の再分配が過去30年間に大々的に行われている。医薬品の特許独占による価格の高止まり然り(そのため年当たり300億ドルの医薬品に3000億ドルの支出がなされているが、差額の2700億ドルは、上位2%へのブッシュ減税の延長で問題になっている額の5倍近くになる)、発展途上国の医者を締め出すことによる競争の抑止然り(自動車産業の労働者は競争にさらされているために賃金が抑制されているにも関わらず、発言権の大きい医者は同様の競争に曝されない)、ドル高政策然り、ウォール街の救済然り。
ノアピニオン氏
政府の役割は所得の再分配だけではなく、公共財の提供もある。そして、一般に地方政府間の競争は効率的な公共財の提供につながらず(Tiebout Equilibriumがパレート効率的とならない)、連邦政府が必要になる。また、連邦政府にしか提供できない公共財もある。法人税引き下げのような国際的な政府の競争は結構だが、それを基準に政府間競争を語ってもらっては困る。それに、地方政府が企業を惹き付けようとして、企業への課税軽減や規制緩和をしつつインフラ整備や教育の充実に乗り出せば、そのツケが地元の納税者に回る、という問題もある。
Harold Pollack
リベラル派は地方政府間の競争を歓迎するし、アウトソーシングなどの適切な市場メカニズムの活用も歓迎する。オバマの言う「Race to the Top」はそうした考え方を表わしたものであり、その意味でマンキューはこの記事でオバマを支持していることになる。また、政府の不公正是正の役割については疑問を持つこと自体が不思議。
Mark Thoma
マンキューは足による投票を云々するが、州間の移住に税金の差はあまり影響しない、という報告もある