付加価値税を用いて擬似インフレを引き起こし、流動性の罠を脱却する、という政策は、以前フェルドシュタインや山形浩生氏らが日本について提案し、最近ではコチャラコタが(ミネアポリス連銀の研究を紹介する形で)米国について提案したものだが、今度はハーバード大の教授らが南欧諸国について提案した(Mostly Economics経由)。
同論文の著者たち(ハーバードのGita Gopinath、Emmanuel FarhiとプリンストンのOleg Itskhoki)は、3/1付けでProject Syndicateにも投稿している。以下はその概要。
- 付加価値税の増税と給与税の減税との組み合わせである「財政的減価(fiscal devaluation)」は、ユーロを脱退して通貨を減価するより簡単な手段であるが、経済に対してほぼ同様の影響をもたらす。
- 通貨の減価は輸入を高価にし輸出を安価にするが、付加価値税も輸入品の価格を上昇させる。ただし国内企業については、給与税の引き下げにより価格を引き上げるインセンティブを削ぐことになる。また、輸出品は付加価値税の対象外なので、輸出価格は下落する。かくして、ユーロに留まったまま、通貨の減価のもたらす競争力効果を手に入れることができる。
- この政策には、財政面でのプラスの効果もある。通貨の減価と同様、競争力の向上による経済成長により、税収の増収が期待できる。また、この方式では、貿易赤字の額に比例した税収が(特に短期で)期待できるので、競争力の弱い国ほど財政面の恩恵が大きくなる。
- この政策は、インフレと同様、債券保有者に(資本課税を調整しない場合は株式保有者にも)実質ベースの損失をもたらす。一方、インフレスライド方式を取っている失業保険や医療補助や年金や最低賃金の実質ベースの価値は変わらない。即ち、この政策には、インフレと同様の再分配効果がある。