消えた女性たち

雛祭りの日の相応しい話題では無いような気もするが、アジアにおいて本来あるべき男女比に鑑みて女性が少なすぎる、というアマルティア・センが提起したMissing woman問題に関して新たな視点を提供する論文をタイラー・コーエンが紹介している。論文の著者はSiwan AndersonとDebraj Rayで、既に2年前にReview of Economic Studiesに掲載されたものとの由。


この研究の一つの特徴は、男女比の不均衡が出生時の間引きだけに起因しているのではなく、成長後に罹患した病気の手当てが不十分であることも要因となっていることを明らかにした点にある。また、中国とインドとサハラ以南のアフリカという3地域を対象に研究を行っており、対象をアジアに限定していないことも特徴となっている。


以下は推計された「消えた女性たち」の年齢別分布のグラフであるが、出生時以外にもこぶが見られ、本来救えたはずの病気によって死亡した少女ないし成人女性の存在を示している。

とは言え、やはり中国の出生時の割合の高さは目に付き、間引きの存在を濃厚に示唆している。また、インドでもその疑いは残る。それに対し、サハラ以南のアフリカについては間引きの存在は示されない。


また、下図は年齢別の死亡者の男女比率である。先進国では男性の死亡の方が多いのでこの比率は1より高めに推移しているのだが(特に10代から30代)、3地域ではそれより概して低い。その差が消えた女性たちということになる。


なお、この論文のもう一つの特徴は、この手法を20世紀初頭の米国にも適用し、当時の米国も、現在のインドやサハラ以南のアフリカと同様の傾向を示していたことを明らかにした点にある。以下はそのグラフ。

ただ、こうした女性の死亡が男女差別によるものか、それともそれ以外の要因によるものかはこの手法では区別できない、ということを論文の著者たちは認めている。