9/6に一般均衡の存在証明に疑問を投げ掛けたメキシコ人経済学者アレハンドロ・ナダルのブログポストおよび共著論文を紹介したが、そのエントリに松尾匡氏から思慮に富んだコメントを頂いた。実は小生はこの辺りのことをあまり分かっておらず、勉強かたがた取り上げてみたのだが、松尾氏のコメントを読んで自分の知識不足を痛感した次第である。そこでもう少し知識を仕入れようとぐぐってみたところ、同志社大学経済学部教授の田中靖人氏のHPに掲載されているディスカッション・ペーパーの末尾に、この件に関する分かりやすい証明が記載されていることを知った。そして、それを読み進めてみたところ、実はこれがナダルの疑問への解答になっているのではないか、という思いを抱いた。
というのは、共著論文においてナダルたちは、以下の3条件を満たす価格の連続関数Mを用いたアロー=ハーンの写像を取り上げているのだが、
(1) Mi(p) > 0 if and only if zi(p) > 0
(2) Mi(p) = 0 if zi(p) = 0
(3) pi + Mi(p) ≧ 0
(piはp[=価格ベクトル]の要素i、zi(p) は商品iの超過需要)
実際にアロー=ハーンが用いている写像がp + M(p)ではなく、下記のように基準化されたものであることを問題視しているからである。
(4) T(p) = [p + M(p)] / [p + M(p)]e
この基準化は不動点定理が適用可能な単体という条件を課すためだが、それによってそもそも(1)〜(3)の条件が成立しなくなるではないか、というのが彼らの批判の主旨である。
ところが、田中氏の証明では、あくまでもpi + Mi(p)という写像(田中氏はvi(p)と表記)を証明の対象にしている。そして、ワルラスの法則から不動点ではT(p)(田中氏はφ(p)と表記)とv(p)が一致することを示している。つまり、上の(1)〜(3)と(4)が矛盾しないことを示したわけだ。
ちなみに、田中氏のHPには英文で同様の証明を記した論文もあったので、ナダルのエントリのコメント欄でそれを紹介し、同時に「ある商品の価格変化は、当該商品の超過需要の符号だけではなく、他のn-1商品の超過需要の符号に依存するようになる」というナダルたちが問題視する点は、実は基準化ではなくワルラスの法則のせいではないか、とコメントしたところ、それは考えてみるべきかもしれない、という返答をもらった。