昨日のエントリでは格差問題、一昨日のエントリでは社会の構成員同士の信頼性の問題を取り上げたが、以下のグラフでは両者の間の相関が示されている。
これによると、格差が小さいほど社会の中のお互いへの信頼度が高まるという。
このグラフは、ダニエル・リトル(Daniel Little)*1が以下の本の書評エントリで同書から引用したものである(Economist's View経由)。
Spirit Level,The: Why Equality Is Better For Everyone
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リトルはまた、同書から、格差と健康の関係を取り上げたグラフも引用している。
こうしたグラフを見ていると、格差縮小こそが社会問題への一番の特効薬、というようにも思えるが、残念ながら話はそう単純では無い。リトル自身が、同書のこうした統計分析自体には異を唱えていないものの、その解釈に大いに疑問を呈しているからである。具体的には、同書では格差による人々の心理への悪影響が各種の社会指標に表れている、と解釈しているのに対し、そこまで因果関係は単純ではないだろう、という批判をリトルは投げ掛けている。
リトルは、著者たちの解釈を、デュルケームによる社会のアノミーと個人の不幸との関連付け、および、テンニースやパットナムによる共同体の緊密性と個人の幸福との関連付け、といった系統の社会科学に連なるものとし、「疫学的手法でドーピングされたデュルケーム(Durkheim on epidemiological steroids)」*2と呼んでいる。
なお、このリトルのエントリを紹介したEconomist's Viewで付いたコメントを受け、リトルは後続のエントリも立てている(これもEconomist's Viewでリンクされている)。そこでリトルは、この本の統計分析自体にも疑問を呈したブログエントリとして、昨年初めのレイン・ケンウォーシー(Lane Kenworthy)のエントリを紹介している。そこでケンウォーシーは、格差と平均寿命に関する相関が、日本、シンガポール、ポルトガルを含まない別のデータソースを使うと消えてしまうことや、
国ごとに時系列的に見た場合に成立していないことを指摘している。
ケンウォーシーによれば、同書の全部とは言わないまでもかなりの散布図における相関パターンが、米国と日本を初めとする少数の国によって成立している、とのことである。