料理と温暖化の関係

以前、発売前の「超ヤバい経済学」に対する批判を紹介した際、ネイサン・ミルボルトの話に触れた。彼は温暖化問題において地球の反射能(アルベド)に着目しており、そのためにソーラーパネルの色を槍玉に挙げたり(黒くて熱を吸収してしまう!)、成層圏に二酸化硫黄を撒いて太陽光を反射させるという計画を提案したりしていた。


一方で彼は、料理にも凝っており、下記のような本を出版したりしている(cf. らばQの紹介記事)。

Modernist Cuisine: The Art and Science of Cooking

Modernist Cuisine: The Art and Science of Cooking


アンドリュー・ゲルマンが、3ヶ月ほど前のブログエントリで、実はこの2つの話はミルボルトの頭の中で結び付いているのではないか、という推理を披露した。その鍵となったのが、上の料理本を紹介したニューヨーカー記事の以下の一節。

Notwithstanding its title, "Modernist Cuisine" contains hundreds of pages of original, firsthand, surprising information about traditional cooking. Some of the physics is quite basic: it had never occurred to me that the reason many foods go from uncooked to burned at such speed is that light-colored foods reflect heat better than dark: "As browning reactions begin, the darkening surface rapidly soaks up more and more of the heat rays. The increase in temperature accelerates dramatically."
(拙訳)
「現代主義者の厨房」というタイトルにも関わらず、この本には、従来の料理に関する独創的かつ直接的かつ驚くべき情報が何百ページにも亘って収録されている。そこで用いられている物理学の中には、極めて基本的なものもある。多くの食品が未調理の状態からあれほど速く焦げた状態になるのは、明るい色の食品の方が暗い色の食品よりも熱を反射しやすいためだということに私は個人的に気が付かなかった:「焦げ始める過程が始まると、暗い色になっていく表面は熱線をどんどん吸収していく。温度は加速的に上昇していく。」

これを読んだゲルマンは、料理で反射率の問題に目覚めたミルボルトは、それをソーラーパネルにも見て取ったのではないか、と推測している。


これに対しコメント欄では、そもそも食品の表面の色が熱吸収の違いをもたらしているというミルボルトの説明は正しいのか?、という疑問の声が寄せられた。そうではなく、水分が蒸発するためにその後の加熱が急速に進むのではないか、という仮説を複数のコメンターが唱えている*1。また、可視光と熱の反射能は違うのではないか、と指摘したコメンターもいる。
ただ、こうしたコメント欄の議論でもミルボルトが決定的に間違っている、という結論にまでは至らず、その点では消化不良に終わった感もある。ゲルマンはこの後に後続のエントリを2つ立てているが、そのうちの一つではミルボルトのソーラーパネル批判は完全な間違い(flat-out wrong claim about the relevance of reflectivity of solar panels)と断じているものの*2、料理に関する話は疑わしい(a dubious claim about reflectivity of food in cooking)と述べるに留まっている。

*1:ちなみに、そのうちの一人はメイラード反応のwikipediaの説明を持ち出している。

*2:その論拠はこの専門家による反論