経済学界本日モ反省ノ色ナシ

ダン池田風にネーミングすればそういうタイトルになるのだろうが、先月米国で公開された今回の金融危機に関するドキュメンタリー映画Inside Job」の監督チャールズ・ファーガソン(Charles Ferguson)が、Chronicle of Higher Education紙のサイトで経済学界を批判する記事を書いている*1。実際のタイトルは「Larry Summers and the Subversion of Economics(ラリー・サマーズと経済学の転覆)」で、その名の通りサマーズを主な標的にしているが、それ以外の著名な経済学者を含め、彼らと実業界との癒着を報酬の実額を挙げながら指弾している。


これに対し、サマーズの愛弟子とも言うべきデロングが10/30に反論した*2。が、反論の対象は記事の主眼である癒着関係ではなく、有名な2005年のジャクソンホールでのサマーズのラジャン批判に関する部分である*3。このジャクソンホールでの出来事は「資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす」で紹介されるなどしたために日本でも知られた話であるが、簡単に言うと、金融システムの破綻を予言的に警告したラジャンに対し、サマーズが否定的に反論した、ということになっている。
しかし、その場に居たというデロングに言わせれば、サマーズが否定(dismiss)したというのは誤解だと言う。サマーズは、ラジャンの論文が、ポジティブ・フィードバックの可能性とその金融市場にとっての危険性について警告したことは正しい、と認めたとの由。ただ、ラジャンが間違った解決法を提示したことを批判したのだ、というのがデロングのサマーズ弁護である。


具体的には、ラジャンが

  • 金融業界関係者が自らの投資の損失から蒙る影響をもっと高めるような報酬制度改革
  • 金融技術革新に対する懐疑的な見方

を提言したのに対し、サマーズは

  • 金融技術革新に足枷を嵌めることにも大きなコストを伴う。
  • (元来の銀行業務に特化した)プレーンバニラの銀行システムの方が金融危機を乗り切る上でより頑強だとは思われない。
  • LTCMの例を見ても、報酬体系と運用成果の連動性を高めることが解決策になるようには思われない。問題はレバレッジの掛け過ぎと集団思考
  • 透明性や取引所制度によってお互いのポジションを分かるようにすることの方が解決策としてベター。

反論したのだ、とデロングは言う。これがdismissalだと言う人はdismissの意味が分かっていない、ともデロングは書いている。


コメント欄では、それにしてもラッダイトという表現をサマーズがラジャンに使ったのは行き過ぎではないか、と書いたコメンターに対し、デロングが、文脈("What Larry said was: I speak as... someone who finds the basic, slightly Luddite premise of this paper to be largely misguided...")を読め、と応じたやり取りも見られる(ただし、元のコメンターはこの返答に納得していない)。


また、anneというコピペ厨的なコメンターは、クルーグマンの昨年1/3のブログエントリをコピペしているが、そこでクルーグマンは、この一件を紹介したWSJブログ記事を取り上げ、「Larry Summers, I’m sorry to say, comes off particularly badly」と書いている。


ちなみにデロングがファーガソンの同記事に反論したのは、上記の10/30エントリが最初ではない。実はこのエントリは、ジャスティン・フォックスの10/29ロイターブログエントリ*4を受けて、10/5エントリ*5を再説したものである。フォックスは、経済学者はインセンティブが重要と説く癖に、自らのインセンティブを云々されると過敏に反応する、と皮肉ったのだが、デロングはその皮肉が自分に向けられたものと受け止めたとのことである(おそらくフォックスの文中にファーガソン記事のリンクが張られていたため)。それに対しフォックスは、実は過敏という点ではジョン・コクラン(の昨年のクルーグマンへの反応)を念頭に置いていたのだが、とコメントしている*6

*1:ちなみに映画を巡っては、既にミシュキンファーガソンがFTのEconomists' Forum上でやりあうという一幕も見られた(Economist's View経由)。

*2:[11/4追記]Economist's Viewのほか、Econbrowser(ジェームズ・ハミルトン)もこの反論にリンクしている。また、Modeled BehaviorではAdam Ozimekがデロングに賛同してサマーズ擁護のエントリを書いている

*3:ただし、エントリの最後では、この2005年の出来事はサマーズがヘッジファンドD.E. Shawの職を引き受ける14ヶ月前の出来事ではあるが、その時点ではサマーズがハーバード総長を辞任するとは思われていなかったので、両者(サマーズのラジャン批判とD.E. Shaw)を結びつけるのは間違いだ、と書いている。

*4:フォックスは、Barbara Kiviatと共に、フェリックス・サーモンが南アフリカ休暇中に彼のブログの代打を務めていた。

*5:そちらのエントリでデロングは、ラジャンが問題は以前に比べて顕著になっていると述べたのは間違いだ、とサマーズは言ったが、その点ではサマーズの方が間違っていた、と認めている。

*6:このやり取りについては休暇明けのサーモンが早速取り上げている