Mr.フリーズの逆襲

Baatarism氏が今回の円高介入について書かれているが、その中でお馴染みの「実質為替から見れば円高ではない」論が引用されている。そこで引用されているのは伊藤隆敏氏だが、その直後に池田信夫氏も同様のことを述べている。


Baatarism氏が指摘しているように――あるいは小生が以前指摘したように――こうした主張の問題点は、デフレという病に経済が罹患している中での通貨高を、経済の好調に伴うインフレ時における通貨安と同等に見做している点にある。喩えて言うならば、低体温症に陥った人に対し、外界の温度と体温の差は以前に比べ縮小しているのだから、以前よりも寒さに耐えられるはずだ、と言っているようなものである。
あるいは、そういう論者の目には、今の日本経済がMr.フリーズのように映っているのかもしれない。即ち、一度極端な冷凍状態に曝されたため、冷凍下で生きるのが当然な体質になった、というわけだ。従って、そうした人間が平温環境下で普通に生きようとして冷凍スーツを脱ごうとするのは言語道断、そのような行為はむしろ周りを冷凍化する不埒な行為だ、ということになる。


また、別の喩えを使うと、そういう論者は、無意識にハイパーデフレ論と同様の誤謬に陥っているようにも思われる。ここでハイパーデフレとは、政府の過大なシニョリッジを前提にした場合、経済モデルからは、ハイパーインフレではなくむしろハイパーデフレが導出されてしまう現象を指す。実質貨幣残高という経済変数を所与のシニョリッジに適合させた結果、そのような解が出てきてしまうわけだ。もちろんこれは、そのようなデフレに必然的に伴う経済活動の低下の影響を捨象した話である。同様に、実質円安論者は、実質為替レートという経済変数を長期水準と比較するという作業において、デフレに伴う問題――デフレから円高という因果関係の可能性も含めて――を完全に捨象してしまっているように思われる。