ロバート・ホールのインタビュー〜労働市場

引き続きミネアポリス連銀のロバート・ホールインタビューから、今日は労働市場に関する話を取り上げてみる。今回は引用ではなく、箇条書き式に内容をまとめてみる。

  • 1982年に米国経済における長期雇用の重要性を実証した論文を書いたが、その内容は今も有効。金融メディアは、離職率が上昇し、古き良き終身雇用は消滅した、と常に書き立てるが、それを裏付ける証拠は無い。2005年の論文では、離職率は安定しており、雇用プロセスと求職に目を向けるべき、と主張した。
  • ホールは、そうしたプロセスを注意深く研究し、求職の動学、賃金の硬直性、賃金交渉、生産性といった要因を調べた。そして、(彼に言わせれば)非現実的なほど高い労働の供給弾力性を仮定することなしに労働市場の変動を説明する*1モデルを構築した。
  • ホールの研究によれば、就職率を決める重要な要因は、雇用者側の職を創出しようとするインセンティブ。そうしたインセンティブが低下すると、求職者にとって困った事態となる。
  • 面白いことに、労働市場の情勢に関わらず、月次の就職者数は概ね400万人で安定している。売り手市場の時は、求職者が比較的少ないので、仕事が見つけやすい。そこそこ良い市況の時は、平均的な人間が職を見つけるのに大体1ヶ月掛かる。買い手市場の時は、求職者が倍に膨れ上がり、仕事の見つけやすさは半減する。しかし、仕事を探している人数と就職率の積は、たとえ現在のように失業率が10%の時でも、ほぼ一定である。これは労働市場に関する重要な事実である。
  • 雇用者側の職を創出しようとするインセンティブは、追加的な雇用による利益と、その労働コストの差によって決まる。景気後退時にはその限界利益が低下する。
  • 一時は、生産性がそうした限界利益に大きな影響を与える要因と思われていた。しかし過去3回の景気後退時には生産性はむしろ上昇した*2
  • ではどの要因が重要なのか、という点については今も議論が続いている。たとえば前述の金融の摩擦も一つの候補。雇用も投資としての性格を帯びていると考えれば、資金コストの上昇が追加雇用の意欲を減じる、と考えられる。

*1:ホールは、インタビュアーがexplainという言葉を使ったのに対し、謙遜して、accounting forぐらいが良いところ、と応じている。

*2:cf. クルーグマンこのブログエントリ