景気後退終了日付判定見送りの内幕

既に報じられている通り(例えばここ)、NBER(全米経済研究所)の景気循環日付判定委員会は、4/12に、今回の景気後退終了時期の判定を見送るという声明を発表した。委員会のメンバーであるジェフリー・フランケルが、同日にブログでその内幕について書いているので、以下に拙訳で紹介する。


NBER委員会は2009年に景気後退が終了したという宣言を確証が得られるまで保留
(NBER Committee Holds Off Declaring Recession’s 2009 End Until It is Sure)

今朝、NBER景気循環日付判定委員会は、顔を合わせた会合――それほど頻繁にあることではない――を4月8日に行ったが、2007年12月に始まった景気後退の谷を決定するには至らなかった、という声明を発表した。この会合は週末にマスコミからの多々の疑問を招いたが、今日明らかになったがその回答である。しかし、本日、この話がさらに多くの疑問を招いている。以下は、その中でも最も尋ねられることの多い疑問と、それに対する私の個人的な回答である。この回答はあくまで私自身のものであり、私がそのメンバーである委員会のものではない。



Q:個人の投資家、労働者、消費者はNBERのこの声明にどの程度重きを置くべきでしょうか?
A:まったく重きを置く必要はないでしょう。


Q:特筆すべき出来事ではないならば、なぜ景気判定委員会はこのような声明を出したのでしょうか?
A:実際の会合があったことをマスコミが嗅ぎ付けるのは間違いなかったので(現に嗅ぎ付けましたが)、声明を出すことにより生じる混乱は、謎めいた沈黙を守ることによる混乱よりも小さかったと考えられます。


Q:委員会が決定に達しなかったという声明を出したのはこれが初めてですか?
A:いいえ


Q:声明は我々がまだ景気後退の中にいるものと解釈されるべきではないでしょうか?
A:いいえ


Q:金融市場が月曜の声明にネガティブに反応することを懸念していらっしゃいませんか?
A:いいえ



Q:1週間前のブログポストで景気後退はおそらく終了した書いていらっしゃいましたが、どの指標がそれを示していると個人的にお考えですか?
A:2009年後半の成長は力強く、今年第1四半期もプラスであったことは明々白々です。ちなみに、このところ我々は成長を評価する際に、少なくともGDPと同じくらい国民所得に注目しています。理論的には両者は同じであるべきですが、実際には違っています。労働市場の回復はいつものように遅れていますが、10月には労働総時間は増加し始めました。その後、雇用自体も増えています。2008年と2009年の大量の雇用喪失の後では、労働統計局の4月2日の報告は特に明るい材料でした。従って、昨年のどこかが景気が谷だった可能性は高いと思います。


Q:その谷は正確にはいつだったとお考えですか?
A:まだ分かりません。2009年の第2四半期もしくは第3四半期のどこかだったと思います。


Q:景気後退はおそらく終わった、と言っている委員会メンバーはあなただけではありませんね。
A:その通り。たとえば委員長のボブ・ホールもこのところそう言い続けています


Q:民間のエコノミストもそう言っていますね。
A:ええ。しかし、委員会の宣言はもちろん常に他のエコノミストよりも遅れます。それが確実になるまで待つことの代償なのです。



Q:景気はもう良くなったとお考えですか?
A:景気の谷は「経済がどん底にある」状態である、というイメージが、「景気後退は終わった」というもっとポジティブな響きを持つ修飾語と同じくらい安易なものであることに注意することが大事です。景気後退は経済活動が低下し続ける期間として定義されるものであり、経済活動が低水準にあることではありません。特に失業率は未だ非常に高い水準にあり、我々に馴染みのある水準に戻るまでには長い時間が掛かるでしょう。というのは、あまりに多くの人が1年以上も失業しているからです。とは言え、私は今年に関して他の多数派の見方より楽観的に見ています。


Q:先週の火曜の会合で、あなたは景気後退はおそらく終了したという自分の見解を当然披露され、他の方々もそれぞれの見解を披露しましたよね?
A:我々には、審議の際の他のメンバーの見解や意見を明らかにしてはならない、という規定があります。そして今回は、私自身が会合で述べたことも明らかにしないでおきたいと思います。


Q:しかし、あなたの見解、特に4月5日のブログポストで示され、ここここここで報道された見解と、景気後退終了を宣言するのは早すぎるという公式声明の間には紛れも無く違いがありますよね。あなたと委員会の大勢との間に大きな意見の差があることは明白に見えます。
A:そのように見えることは分かりますが、あなたが思うほどの大きな差があるとは限りません。決定は確率の問題に関することなのです。常にそうですが、経済が明日にも急降下する可能性はあります。その可能性は1%よりは大きいでしょう。そうした仮想的なありそうもない出来事が起きた場合、委員会は、その新しい低迷を第二の景気後退と数えるべきなのか、それとも2007-2009の景気後退の一部と考えるべきなのか、決断を迫られます。後者の場合、2009年の景気の谷を宣言していたとしたら、間違いを犯していたことになります。その場合、我々は景気の谷に関する声明を撤回しなくてはなりません。これは、仮想的な疑問にもっと確信を持って回答できるまで待つべき、という方針を支持する優れた議論です。私もこの議論には納得しています。


Q:事実が明らかになった後で委員会が日付を訂正するのはそんなに悪いことなのですか?
A:前例がありませんからね。繰り返しご説明している通り、委員会の役目は景気の転換点に関する最終決定であり、最初に声を上げることではありません。従って、事実が明らかになった後で日付を訂正するようになったら、我々の存在意義が多少なりとも問われることになります。


Q:委員会の別のメンバーであるロバート・ゴードンは、委員会の保留という判断に大いに異論がある、と公に言って憚りません。
A:ええ。実際、彼はその異論声明を投稿しました。しかし私はそのようなことはしません。


Q:でも、あなたが景気後退はおそらく終了したという自分の見解を公にしたのは彼より前です。
A:自分のブログがあるのでね。



Q:景気後退が2009年のどこかで終わりを告げたという最終決定がなされるものとしましょう。財政刺激がその景気後退終了に果たした役割があったとするならば、それはどのようなものだったのですか
A:私に言わせれば、多大な貢献があったと思います。確かに、2009年2月に制定された財政刺激は、経済を完全雇用に直ちに戻らしめるには力不足でした。(既存の政府債務の規模に照らして)党派政治と世界金融市場の両者から課せられた制約により、8000億ドルを超える規模にはできませんでした。それでも、その財政刺激は、FRBの金融政策ならびにその他の重要な政策対応と相俟って、(他の同様の事例の標準に比べ)比較的巧みに設計されていて大恐慌に陥るリスクを回避するのにおそらく決定的な役割を果たし、景気後退終了に大いに貢献した、と思います。もちろん、同意しない声も――主に経済学の外の世界で――あるでしょう。そうした反対の声が上がるのは、一つには財政刺激が無かった場合に何が起きたかを証明することが不可能なためです。


Q:不動産と銀行は金融危機震源でした。その2つの分野はもう落ち着いたと思いますか?
A:世界で最も流動性が高いと思われていた市場で流動性が干上がったのが、今回の危機の特徴です。銀行間信用市場の機能不全は、TEDスプレッドや、最大かつ最も安全な銀行でさえ借り入れのために払わねばならなかったプレミアムのその他の尺度の非常な拡大によって容易に定量化できます。それらのスプレッドは、昨年に通常水準に戻りました。新しい経済ショックの可能性は否定できませんし、どのみち建設業はゆっくりしたペースでしか回復しませんが、危機の震源たる金融部門は安定化したと言って良いと思います。



Q:2007-2009年の景気後退は大恐慌以来最悪のものでしたか?
A:ええ。1980年代初頭の景気後退もそれに近いものでしたが。実際、もし失業率を基準にするならば、1982年は今回より悪かったことになります。しかし、失業率の増加幅、雇用喪失、産出低下、景気後退期の長さ、といった諸々の指標を考え合わせると、2007-2009年の景気後退は間違いなく大恐慌以来最悪のものでした。

Q:「大平穏」に倣って「大不況」と呼ぶべきでしょうか?
A:私は大平穏という用語にお墨付きを与えたことはありません。名前に相応しいほど長く続くとは思えなかったので。大不況という言葉も使うつもりはありませんね。でも、厄介な不況だったことは確かです。



繰り返しになるが、 いずれの回答も私個人のものである。