ハイパーインフレーションモデルについての補足・その3

3/17エントリで導いた

  \pi = g_M + A exp(\frac{t}{b})

という式について、追記(脚注1)で

幸か不幸か齊藤誠氏が「先今」で展開して黒木玄氏の批判を浴びたハイパーインフレモデルの簡略版になっている

と書いたが、一応その辺りを数学的に補足しておく。


齊藤氏の(13)式は、
  p_t=\sum_{\tau=0}^\infty[-\gamma(\frac{1}{1-\gamma})^{\tau+1}m_{t+\tau}]+(1-\gamma)^th_0
である。よって、
  p_{t+1}-p_t=\sum_{\tau=0}^\infty[-\gamma(\frac{1}{1-\gamma})^{\tau+1}(m_{t+1+\tau}-m_{t+\tau})]-\gamma(1-\gamma)^th_0
齊藤氏の記法ではp、mはそれぞれ価格、名目貨幣残高の対数値なので(=mについてはこれまでの実質貨幣残高という意味ではないことに注意)、その差分は各変数の伸び率となる。すなわち、pの差分はインフレ率πであり、名目貨幣残高の差分はgMである。ここで3/17エントリと同様にgM一定を仮定すると、
  \begin{eqnarray} \pi &=& g_M\sum_{\tau=0}^\infty[-\gamma(\frac{1}{1-\gamma})^{\tau+1}]-\gamma(1-\gamma)^th_0 \\ &=& g_M -\gamma(1-\gamma)^th_0\end{eqnarray}
([]内の合計が1になる点は黒木氏レジュメを参照)

右辺第二項を連続時間ベースに変換すると
  \begin{eqnarray} \pi &=& g_M -\gamma(\lim_{n\to\infty}(1-\frac{\gamma}{n})^n)^th_0 \\ \\ \\ \\ &=& g_M-{\gamma}h_0\exp(-\gamma{t})\end{eqnarray}


ここでγは、齊藤氏の(10)式
  m_t-p_t = \theta y_t +\frac{1}{\gamma}i_t
を満たす係数である(ただしit名目金利i_t=r_t+p_{t+1}^e-p_t[フィッシャー方程式=齊藤氏の(11)式]を満たす)。
従って、γは3/17エントリの-1/bに相当する。


結局、齊藤氏の(13)式は、名目貨幣残高伸び率一定を仮定し、連続時間に直してA=-γh0 =h0/bとおけば、小生が導出した式と等しくなるわけだ。


[追記]3/15の拙エントリに岩本氏から頂いたコメントには

インフレの話だから,πが表に出る数式で展開した方がいいのはわかっているのですが,きれいな式にならない

とあったが、こうしてみると、まったく展開できないわけでもないように思われる。