昨日のエントリでローマーのシニョリッジとインフレの関係を論じた部分を自分なりにまとめてみたが、動学的な部分を積み残してしまったので、今日はそれについてのまとめ。
昨日論じた際は、注に記したように、インフレ率が名目貨幣成長率に等しく、実質貨幣残高が一定となる静的な状態を仮定していた。ここで、mの時間変動を考えてみると
ln(m) = a - b(r+π) + ln(Y)
より
となる(r、Yは引き続き一定を仮定)。すなわち、インフレ率が昂進していくと、実質貨幣残高は縮小してゆく。逆に、インフレ率が低下していくと、実質貨幣残高は拡大してゆく。
また、名目貨幣成長率gMと実質貨幣成長率の間には
の関係があるので
となる。すなわち、インフレ昂進期には、名目貨幣成長率はインフレ率を下回る。
政府のシニョリッジdはgMmとして表せるので、
となる。よって、インフレ昂進期には、静的な状態の時のシニョリッジπmに比べて少ないシニョリッジしか得られない。そこでシニョリッジを増やそうとインフレをさらに昂進させると、本来得られるシニョリッジと実際に得られるシニョリッジの差はさらに拡大する。これがハイパーインフレーションに至る悪循環である。
別の言い方をすると、政府がある水準のシニョリッジを確保した場合、インフレ率はその時の名目貨幣成長率にb×インフレ変化率を上乗せしたものになる。実際、名目貨幣成長率一定を仮定して上式を変数分離で解くと、
という一般解が得られる(Aは定数)。すなわち、インフレ率は名目貨幣成長率に時間についての発散項が加わったものになる。ただし、そうやってある水準のシニョリッジを確保したと思っても、時間が経過すると実質貨幣残高の縮小に伴いそのシニョリッジは低下していってしまう。それを一定に保つためには、さらに紙幣を刷って名目貨幣成長率を上げ続けていかなくてはならない。すなわちその場合のインフレ率πは、上式の名目貨幣成長率一定の仮定下で導出されたものよりも一層増大させる必要がある[「ただし〜」以降は3/19エントリへの岩本氏コメントを受けて3/20追記]。
なお、上記のハイパーインフレーションの説明はローマーのものではなく、小生が昨日の式から展開したものである*1。
ローマーの説明では、実質貨幣残高が本来の実質貨幣残高から乖離した場合、本来の実質貨幣残高に回帰してゆくミーン・リバージョン的な動きをすることを想定している(下式)*2。
ここでC・exp(-bπ)が、インフレ率πのもとでの本来の実質貨幣残高である。また、回帰の係数βは0<β<1/bが仮定されている。
これと名目貨幣成長率gMと実質貨幣成長率の関係式
からπを消去すると、
これを実質貨幣残高成長率について解くと
ここで[]内の第一項のmの係数{ln(C)-ln(m)}/bは、mが本来の実質貨幣残高である場合のインフレ率である。従って、それにmを乗じた項は、本来の実質貨幣残高のもとでのシニョリッジである。一方、[]の第二項のgMmは、実際に政府が得るシニョリッジである。従って、もし政府が本来の実質貨幣残高に対応する水準を超えてシニョリッジを得ようとすると、[]内は必ずマイナスになる。また、1-βb > 0 を仮定しているので、結局この時の実質貨幣残高成長率は必ずマイナスになる。従って、その場合には、欲するシニョリッジを得るためにインフレ率の膨張を覚悟しなくてはならない、というのがローマーのハイパーインフレーションの説明である。