デフレ競争への序曲

3/2ラトビアの話を紹介したが、そこでリンクしたEdward Hughの2/26付けのA Fistful of Euros記事に対し、同じA Fistful of Eurosに3/4付けで反論記事が上がった。書いたのはMorten Hansenというストックホルム経済大学リガ校(Stockholm School of Economics in Riga)の経済学部長。


Hughが、ラトビアの勝利宣言を出したEconomist記事を「Too Soon To Cry “Victory” On Latvia?」と題した記事で攻撃したのに対し、Hansenは「Latvia: No victory yet, no defeat either」と題して、まだ勝っていないかもしれないが負けと決まったわけでもない、と論じている。そして、デフレ政策はまだラトビアでは本格化していない、というHughの主張に対し、以下のデータを示して反論している。

  • HughはCPIの下落率が1月時点で未だ-3%強であると言うが、2008年5月には上昇率が17.9%に達していたことを考えると、20ヶ月で21%以上下がったことになる。
  • 賃金については、GDPの雇用者報酬が雇用を上回るペースで減少したため、一人当たりに換算すると2009年に急激に減っている。
  • 時間当たり賃金は、民間よりも公的部門で急激に減少している。これはIMFなど救済資金を出す側に取っては良いニュースだろうし、国際競争力には直接関係ないかもしれないが、憂うべき現象であることには変わりない。
  • 2009年には輸出単価は下がっており、ラトビアが国際競争力をかなり取り戻したことを示している。

Hansenは、攻撃的な論調になることを慎重に避けているものの、通貨切り下げを推奨するHughやクルーグマンとは明らかに一線を画する姿勢を見せている。すなわち、確かにラトビアのデフレ政策には拙劣な面があったが、一方で通貨切り下げが悲惨な結果をもたらすことも大いにあり得る。問題なのは施策方法が適切か否かであるが、通貨切り下げ論者も、切り下げが秩序正しく行なわれる方策を提示していないではないか、というのが彼の主張である。


この件についてはレベッカワイルダー参戦し、ユーロ圏で比較した場合、ラトビアのデフレ努力は確かに光っている、と書いている。昨年第3四半期のデータが利用可能なユーロ各国について、同期の時間当たり労働コストの下落率を比較すると、ラトビアの-6.8%は24ヶ国中4位である。それに対しギリシャは+4.9%と19位であり、ラトビアに比べるとデフレ努力が足りない、ということになる。

ワイルダー続くエントリで、しかしこうしたデフレ合戦で輸出による成長を勝ち取ろうとしても、ユーロ圏すべての国が勝者になることはあり得ない。そう考えると、ユーロ圏で負債の負担に耐え切れなくなった国の破綻はほぼ確実に発生するのではないか、と書いている。それをクルーグマンが目に留め、ワイルダーは正しい、これはユーロ圏内でのアンドリュー・メロン流の清算主義の発動になっているのだ、と評している。