ラインハート=ロゴフは因果関係を逆に見ている?

一昨日のエントリで政府債務を問題視するラインハート=ロゴフへの異議申し立てを紹介したが、彼らの見解については、当然のごとくポストケインジアン=Neo-Chartalistも大いに反発している。


彼らの根城とでも言うべきカンザスブログの直近エントリでは、Marshall Auerbackという人がこの件について書いている。その主張は以下の通り。

Debt to GDP is a ratio and the ratio value is a function of both the numerator and denominator. The ratio can rise as a function of either an increase in debt or a decrease in GDP. So to blindly take a number, say, 90% debt to GDP as Rogoff and Reinhart have done in their recent work, is unduly simplistic. It appears that they looked at the ratio, assumed that its rise was due to an increase in debt, and then looked at GDP growth from that period forward assuming that weakness was caused by debt instead of that the rise in the ratio was caused by economic weakness. In other words, they have the causation backwards: Deficits go up as growth slows due to the automatic counter cyclical stabilizers.They don't cause the slow down, etc.
(拙訳)
債務の対GDP比率は比率であり、比率の値というのは分子と分母双方の関数である。この比率は、債務の上昇とGDPの減少のいずれかの帰結として上昇し得る。従って、ロゴフとラインハートが最近の研究で行なったように、債務GDP比率のたとえば90%という数字を無条件に基準にするというのは、あまりにも話を単純化し過ぎている。彼らは比率を眺めて、その上昇が債務の増加によるものだと見做し、それからそれ以降のGDP成長率を眺め、比率の上昇が経済の弱さによって引き起こされたのではなく、成長率の弱さが債務の増加によって引き起こされたのだと見做したように思われる。言い換えれば、彼らは因果関係を逆に見たのである。自動反循環安定化装置により、成長率の低下と共に債務が増加するのであって、債務が成長低下をもたらすのではない、といったことが本来の因果関係だ。

実はこの反論内容は、小生が以前ここで書いたものとほぼ同様である。


Auerbackはさらに、以下の図を描画して、近年の債務の対GDP比率が、経済成長の鈍化とそれに伴う債務の上昇という分母分子両方の動きを反映していることを示している。

これもまた小生が前記エントリで描画した図と同様である。



ちなみにクルーグマンも、直近のブログエントリで、一昨日の拙エントリで取り上げたヘンドリーと同様に、英国の過去300年以上の債務GDP比率のグラフ(下図)を示し、その比率自体が問題ではなく、政府への信頼が問題なのだ、と書いている。


そして、ラインハート=ロゴフの名こそ出していないが、以下のように書いている。

So what determines confidence? The actual level of debt has some influence — but it’s not as if there’s a red line, where you cross 90 or 100 percent of GDP and kablooie; see the chart above. Instead, it has a lot to do with the perceived responsibility of the political elite.
(拙訳)
それでは何が政府への信頼を決めるのか? 債務の絶対水準も影響するだろう。しかし、何か赤線があって、GDP比率が90か100%を超えたらおしまい、というわけではない。前掲の図を見よ。そうではなく、政治的エリートの責任感に対する皆の見方が大きく左右するのだ。


この信頼感の問題に関してクルーグマンは、昨年11/27のエントリでより詳細に書いている。要は、債務の増加の原因が放漫さによるものではないことがはっきりしており、政府にマネージメントする意思と能力があると皆が思っていれば大丈夫、ということである。


なお、クルーグマンは、今回のエントリの最後で、メディケアの支出抑制に反対する共和党を揶揄してるが、CBOの下の図を見るとそれも頷ける(このエントリの注で触れたジェームズ・クワック経由)。