大平穏期の原因は?

Economist's Viewの12/17エントリで、Mark Thomaが大平穏期(The Great Moderation)について論じている。


彼はまず、Macroeconomic Advisers, LLCのためにJames Morleyワシントン大学准教授が書いたレポートから以下の図を引用し、経済成長率の変動が、1984年第一四半期以降、確かに小さくなっていることを示している。


Thomaによると、大平穏期をもたらした要因は以下の通りである。

  • 技術の改善。たとえば情報技術の進歩により、在庫管理が改善された。
  • 政策の改善。たとえばインフレ目標
  • 幸運。経済が大変動に見舞われなかった。
  • 金融の技術革新と規制緩和
  • グローバリゼーションによりリスクが分散された。
  • ビジネス慣行の改善。
  • 金融市場の参加者がより合理的になった。
  • 人口動態の変化。

このうち、「ビジネス慣行の改善」と「人口動態の変化」は一般的にはあまり聞き慣れない説明だが、Thomaはそれぞれ根拠となる論文を示している。
前者の「ビジネス慣行の改善」についてはこの論文(WPはここで読める)にリンクしており、その論文では改善したビジネス慣行として、

  • ジャストインタイムに代表される在庫管理
  • 洗練された金融市場
  • 国際取引の拡大

が挙げられている(その意味では、「技術の改善」「金融の技術革新と規制緩和」「グローバリゼーション」といった他の要因と被っているとも言えそうである)。
後者の「人口動態の変化」については、自身の以前のエントリにリンクしている。そこで紹介されている論文によると、労働者の年齢層によって労働時間のボラティリティが大きく異なるとのことである(40代が一番安定しており、15-19歳はそのおよそ5〜6倍、60-64歳はおよそ3倍との由)。従って、労働人口における年齢層の構成変化によって、生産のボラティリティも変化する、というのが論文の主張である。下図は、G7各国について、景気変動ボラティリティの高い年齢層の比率の推移を並べて描画したものであるが、フランスを除くと関連性が見られる、と論文は指摘している。



一方、冒頭で紹介したMorleyは、大平穏期は政策や経済の構造変化はあまり関係なく、専ら幸運のお蔭でもたらされた、と主張している。その幸運とは、外部ショックが小さくなったことだが、そうした外部ショックの縮小には、生産や情報の技術進歩が寄与している。従って、その幸運はまだ我々のもとを去ってはいない、というのがMorleyの見解である。