ビル・クリントン「ブッシュ政権はリーマンを救うべきだった」

10/16エントリで、クルーグマンのWorld Business Forumなるフォーラムでの講演内容を紹介したが、WSJブログはこのWorld Business Forumを専用ページを設けてカバーしていた*1


そこでは、クリントン元大統領の講演も報告されている。彼は、ブッシュ政権はリーマンを救うべきだった、と述べ、大統領選挙は事実上この日に決まってしまった、と付け加えたとのこと


また、それ以外の各種テーマについて、以下のようなことを述べている

  • 格差問題
    • 貿易により世界の多くの人々が貧困から抜け出したとは言え、10億人もの人々が未だ1ドル以下での生活を余儀なくされている。また、2億人の人々が不衛生な状態に置かれており、1億3千万の子供達が学校にまったく行っていない。先進国で長寿化が進んだ半面、アフリカでは、未だにAIDSやマラリアといった「貧困の病」によって人々が命を落としている。
    • 温暖化によって渇水が進めば、こうした格差は悪化するだろう。
    • ブッシュ前大統領やゲイツ基金が、アフリカでのAIDSやマラリア予防活動に支出することを保守派に納得させたのは称賛すべき。
  • 不安定性
    • 金融危機新型インフルエンザがその象徴。
    • ヒラリー夫人と地元で散歩していたら、まったく知らない人が歩み寄ってきて、ニューヨークに子供を連れてブロードウェイに観劇に行っても(インフルエンザは)大丈夫か、と訊かれたとのこと。
  • テロに対する各国の脆弱性
    • 米諜報当局のテロを食い止める努力は称賛すべきだが、国際的協調が必要。
    • コロンビアからの麻薬密輸を締め付けたところ、メキシコ経由の流入が増えた。しかも米国の緩い銃規制のお蔭で、米国で入手された銃火器がメキシコの麻薬王達の手に渡り、彼らは今や警察や軍隊を凌ぐ武力を持つに至っている。その点で我々は良き隣人だとは言えない。
    • 銃規制を訴えても間違った主張と見なされる。議会も羹に懲りて膾を吹く状態で、手を出そうとしない。
  • 温暖化
    • 21世紀は石油を巡る紛争の代わりに水を巡る紛争の世紀になるだろう。
    • 温暖化対策ビジネスは幻想ではない。オーストラリアに聞いてごらん。彼らは温暖化の影響を真っ先に受ける。
  • 米国内の問題
    • 資産格差、医療コスト高騰、大学費用の高騰(最近75%も上昇した)。
    • 不平等は大いに問題。その解決のためには仕事を創出すべき。
    • 格差を是正し、バランスの取れた成長を維持するためには、消費に頼った経済、人々の所得収入が医療保険費用に食われる状況、人々が大学に手の届かなくなる状況と決別しなくてはならない。
    • 2001年には4年制大学卒業者比率が過去最高になったが、今の米国はその比率が世界で10番目である。この状況を改善しないと、経済的に恐ろしい結果が待っている。
  • 金融危機
    • ブッシュ、オバマ両政権が金融機関の資本注入に踏み切ったのは正しい政策。最終的な返済時には、納税者に利益が出るのではないか。
  • 温暖化の雇用への影響
    • 温暖化対策ビジネスが今後10年の雇用成長の柱になるのではないか。第二次世界大戦による雇用創出以来の規模になるだろう。
  • 医療保険を巡る政治的対立
    • 非現実的な代替提案を見ると、笑っていいのか泣いていいのか分からなくなる。
  • 民間の役割
    • 政府にすべてお任せというのは間違い。
  • 財政赤字
    • 我々の現在の財政赤字の規模を継続できる国は無い。景気が回復したら、均衡財政に戻るべきものと信ずる。
  • メッセージ
    • 皆が勝者となる世界を見つけなければ、皆が敗者となる。

なお、このフォーラムではサックスも講演し、グリーンスパンの金融政策やクリントン、ブッシュ両政権の経済政策に関し毒舌を繰り広げたらしい


さらに、ルーカスも講演したようだ(ただしロバートではなくジョージの方)。発表の媒体を選り好みすることはない、という発言が注目を集めたとの由。

*1:ちなみに、ここに掲載されているクルーグマン記事は10/16エントリで紹介したReal Time Economicsのものとほぼ同じだが、最後のFTのジリアン・テットとの質疑応答でクルーグマンが飛ばした2つの冗談がReal Time Economicsの方では省略されている。その冗談とは、
1.近年の米中間の貿易は実はそれほど不公平なものではなかったかもしれない。中国は米国に毒性の玩具や汚染された海産物を輸出し、我々は彼らに毒入り証券を送った。
2.牛挽肉と資産担保証券は似ている――バーガーの中身に何が入っているか誰も知らない。
という、やや不謹慎なもの。