NP完全問題とCDO

ケビン・ドラムが「ナーズの復讐」と題したエントリ*1で、意味が良く分からんが面白そうなので紹介する、として、プリンストンCenter for Information Technology PolicyのブログFreedom to Tinkerのエントリを引用している。

それによると、派生商品の組成者がわざとリスクの高い商品を仕込み、かつ、その故意性が理論上実証不可能な場合が存在し得ることを、プリンストン大学のコンピュータ科学者と経済学者が最近発表した論文で示したという。彼らの論文は「Computational Complexity and Information Asymmetry in Financial Products」と題されたこちらで、著者はSanjeev Arora、Boaz Barak、Markus Brunnermeier、Rong Geの4人。コンピュータ理論のその名もIntractability Theoryというものを使ってそのことを示したのだという。Intractability Theoryは、暗号化やデジタル著作権やデジタル透かしといった技術の根幹に使用されている理論との由。


以下はドラムが引用した部分の拙訳。

論文では、1000のモーゲージ資産から1000のCDOを組成するバルク派生商品の売り手を例に示している。組成元の資産のうち幾つかは回収不能な「レモン」であることを売り手が知っているものとしよう。通常、売り手はそれをランダムにCDOに組み込むものとされている。それによって一つのCDOに複数のレモンが含まれる可能性を小さくして、買い手のリスクを最小化するわけだ。しかし、売り手が手を加えて、レモンのほとんどを少数のCDOに集中させることも起こり得る。この改竄操作は、該当のCDOのシニア・トランシェに多大の影響をもたらす。
原理上は、買い手が注意深ければ、たとえどのモーゲージ資産がレモンかを知らなくても、改竄を検知することができる。1000のCDOすべてを調べて、ある種のモーゲージが幾つかのCDOに過度に集中していないかどうかを見ればよい。Arora等が示したのは、これがNP完全問題("densest subgraph")であることである。この問題は、計算不可能であるとされており、従って、最も注意深い買い手といえども、そうした分析を行なう計算能力は無いことになる。
Arora等は、問題がそれに留まらないことも示している。買い手が(シニア・トランシェに影響を及ぼすほどの数のモーゲージ債務不履行になったために)多額の損失を蒙った後においてさえ、改竄があったこと、すなわちレモンの分布がランダムでは無かったことを証明できないのである。このことは、裁判で賠償を勝ち取るのが難しいことを示している。また、CDOの規制が難しいことも示している。

*1:元ネタはこの映画