公的保険制度と国際競争力

少し前に、オバマ政権の経済チームの内幕を描いたNYT記事が話題になった(6/8付け)。「日暮れて途遠し」さんブログで翻訳(ここここ)も出ている。

この記事では、やはりサマーズが中心になっている。個人的に印象に残ったのは、以下のエピソード(訳は「日暮れて途遠し」さんより。以下同様)。

11月30日の彼の誕生日のすぐ後で、新しいチームがシカゴのオバマ氏のトランジション本部で働き始めたとき、ガイトナー氏はカップケーキを持ってきてグループは「ハッピィバースデー」を歌った。
歌が終わったとき、サマーズ氏は「彼は楽しい良い仲間だから」の代わりに「彼はいやな仲間だから」と大声で歌った。

何とまあ自虐的な、という感じである。


後半ではサマーズとグールズビー、サマーズとローマーの角逐が報告されているが、そのうちのサマーズとローマーのヘルスケアを巡る論議にマンキューが反応した。元記事の該当部分は以下の通り。

最近の例では先週火曜日発表されたMrs. Romerのヘルスケア・システムの全面見直しに対する政権の経済的主張を分析したレポートが関係した。
サマーズ氏はMrs. Romerがヘルスケア・リフォームがアメリカのビジネスによりグローバルに競争力を持たせるという内容で主張するように強く求めた。それは政治アドバイザーたちの気に入った「論点」だと付け加えて。

彼はMrs. Romerが出席者の多い会議で彼女の最終原稿のアウトラインを説明したときにも再びそれをした。
彼女は彼をさえぎって、彼自身のスタッフの何人かがこのペーパーにはそのポイントは属さないことに賛成したと述べた。

「私はこの中に安っぽい主張を入れるつもりはない」と彼女は述べた。
「私は安っぽい主張をしていない」と彼は答えた。

Mrs. Romerは後に、あのやり取りは気さくなもので、学会で「私が経験してきた典型的なセミナー」と少しも違わないと述べた。
サマーズ氏が求めたポイントは火曜日の彼女のペーパーには無かった。


これについてマンキューはローマーに軍配を上げている。その際に彼は、自身の以前のブログエントリを引き合いに出しているのだが、そのエントリで彼は、クルーグマンの有名な国際競争力の論文に言及すると同時に、以下のようなCBOレポートの分析を引用している。

Replacing employment-based health care with a government-run system could reduce employers’ payments for their workers’ insurance, but the amount that they would have to pay in overall compensation would remain essentially unchanged. Even though changes to the health care system could have various effects on the supply of labor, the underlying amount of labor supplied at any given level of compensation would hardly be affected by a change in the health care system. As a result, cash wages and other forms of compensation would have to rise by roughly the amount of the reduction in health benefits for firms to be able to attract the same number and types of workers.

http://www.cbo.gov/ftpdocs/99xx/doc9924/12-18-KeyIssues.pdf

(拙訳)雇用者負担のヘルスケア制度を政府負担の制度に変更することは、雇用者の被雇用者の保険支払いを減少させるだろう。しかし、彼らが支払わねばならない報酬全体の額は、基本的に変わらない。ヘルスケア制度の変更は労働力の供給に様々な影響を及ぼすだろうが、ある報酬水準で供給される労働力の量がヘルスケア制度の変更によって変わることは無い。従って、企業が以前と同じ質と量の労働者を引きつけようとするならば、現金給与ならびに他の形態の報酬は、概ねヘルスケア手当ての減少分だけ上昇しなくてはならないだろう。


[追記]
ブコメでCruさんから貨幣錯覚のことか?、というコメントを頂いたが、そうではなく、労働市場で需給を成立させる賃金というのはフリンジ・ベネフィット込みなので、その均衡における額自体は変わらない、ということだと思う。たとえば、月給17万円で3万円の保険を提供するA社と、月給20万円で特に保険は提供しないB社は、労働市場では無差別になる。彼に公的保険制度が成立して雇用者提供保険が無くなった場合、A社は単なる月給17万円の会社になってしまうので、B社に労働市場で対抗するためには、その3万円を賃上げ、もしくは他の何らかの補助の形で充填する必要がある。
なお、マンキューは6/17エントリで同様の主旨のWSJ記事を紹介しているが、そこでは、その公的保険実現のための税金でA社もB社も3万円食われてしまう可能性を懸念している。