カナダからのブログ・消費のオイラー式の解説


「Canucks Anonymous」エントリ紹介シリーズの6回目。今日は5/26エントリで、ここではAdam P氏の考えの根幹にある消費のオイラー式が説明されている。

消費のオイラー式の解説


消費のオイラー式は、効用が最大化された状態では二財の限界効用の比は価格比に等しくなる、という初等経済学の標準的な結果を、異時点間へ類推したものに過ぎない。この結果の直観的理解は極めて簡単で、価格比は片方の財をより多く得るためにもう片方の財をどれだけ諦めねばならないかを教えてくれる、というものだ。具体的な例として、(明確な補完財である)ピザとビールの選択を考えてみよう。ピザ1枚がビール1杯の3倍の価格ならば、ピザ1枚を得るためにビール3杯を諦めねばならない。また、ピザの限界効用というのは、ピザ1枚を得た時に得られる効用、もしくはピザ1枚を諦めた時に失われる効用を測るものである(両者は等しい。というのは、厳密には、限界効用とは導関数であり、消費のバスケットにおいて、無限小のピザが追加もしくは削減されたときの得失であるからである)。


もし貴君の交易条件がピザ1枚当たりビール3杯で、ピザの限界効用がビールの限界効用の4倍ならば、貴君が交易をして、ビール3杯の代わりにピザ1枚を入手すべきことは明白である。そうした交易は貴君の総効用を明らかに上昇させるので、元の状態は効用が最大化された状態ではなかったことになる。貴君の効用が最大になるのは、限界効用比が価格比に等しい時に限られる。消費のオイラー式とは、現在の消費と将来の消費との選択について、これと同様の議論を行なうものである。


今日の消費バスケットの価格を1に基準化し、将来時点Tに償還されるゼロクーポン債を考えてみよう。rを債券の実質利回りとすると、T時点の消費バスケットの価格は1/(1+r)となり、これはそのまま価格比となる。ということで、上述の論理に基づき、今日の消費の限界効用と時点Tの消費の限界効用の比が1/(1+r)に等しい時にのみ効用が最大化されることになる。このことは、満期を迎えるゼロクーポン債が利用可能であれば、Tをどの時点に取っても変わらない。


もちろん、実際には、多くの債券は利付き債である。しかし、利付き債というのはゼロクーポン債の単なるポートフォリオと見なせるので、それらの債券の価格は、やはり今日と将来の消費の価格比に基本的に関係していると言えるのである。


なお、ここでは不確実性を無視した。不確実性は話を複雑にするが、基本的な洞察を無効化するものではない。むしろ、その洞察をより幅広く適用することになる。


追記:(数式説明)

U(c(t+1), t) を、t+1時点のc単位の消費のt時点における効用を表すものとしよう。t時点の消費とt+1時点の消費を結びつけるオイラー式は
 E[U'(c(t+1),t)]/U'(c(t),t) =1/(1+r)
である。ただし、プライム記号はc(.)に関する微分、Eは期待値、rはtとt+1の間の実質金利を表すものとする。


通常は、U(.,t)とU(.,s)は、共通の効用関数と、割引率によって関連付けられるものと仮定する:
 U(c(t+1),t) = b*U(c(t+1));  b<1