カナダからのブログ・IS-LM解説


「Canucks Anonymous」エントリ紹介シリーズの4回目。今日は5/20エントリ

IS-LM解説


このエントリの目的は、私の理解している形でIS-LMモデルを説明することにある。それと共に、以降のエントリで予定している私とNick Roweの貨幣理論のミクロの基礎に関する考え方の違いを説明するに当たっての前振りも兼ねている。IS-LMモデルは、経済において所得と実質金利がいかに同時決定されるかを示すモデルである。モデルは本当の意味では動学的ではないので、ここでは今日と明日の2期間のみを論じることにする(ここで言う明日は、将来のいつか、多分来年、といったところである)。政府支出は無視するので、財政刺激に関しては論じない。


IS曲線
IS曲線は、実質投資需要と実質貯蓄需要を均等化する実質所得Yと実質金利rのすべての組み合わせからなる。Yを横軸、rを縦軸に取った場合、IS曲線は右下がりの曲線となる。すべての変数が実質値であり、IS曲線が実質金利と実質所得の関係を描いていることを覚えておこう。


最初に、IS曲線上のある一点に着目する。それは、完全雇用の状況を表す点である。完全雇用下では実質所得は生産技術によってのみ定まり、実質金利は、完全雇用の維持を前提にした消費の期待成長から決まる自然利子率に等しくなる。政府を無視しているため、所得と消費の差は投資になることに注意しよう。


次に、IS曲線の右下がりの性質について論じる:

1) 消費
現行の金利水準下で今日と明日の消費水準に消費者が満足している均衡状態から出発しよう(明日の消費の不確実性は無視する)。次いで、今日の所得が増加するが、明日の消費は変わらない状況を考えてみる(価格や金利もこの段階ではまだ変わらないものとする)。所得が増加する前は、効用が最大になっていたので、今日の消費の限界的な増加と、明日の消費の限界的な増加は無差別であった。しかし、今日の消費に追加がなされた後では、通常の逓減的な限界効用の考えを適用すると、今日の消費の限界効用は明日の消費の限界効用よりも低くなる。従って、一階条件を回復するため、今日の消費を減らして明日の消費を増やす必要が出てくる。ということで、貯蓄への願望は、仮定ではなく、効用最大化から出てくることが分かる。
2)投資
価格や金利はまだ変化しないものとしよう。企業の最大化問題は、資本の限界収益率(MPK)が実質金利と等しくなるまで資本追加が行なわれると述べている。金利はまだ変化していないので、投資需要に変化はない。(企業についても、現行の投資水準に満足している均衡状態から出発しているものとする)
3)
こうして、貯蓄の欲求が投資の欲求を上回る状態になった。これはどのようにして再び均等化されるだろうか? まず、過剰貯蓄が金利を引き下げる。これには2つの効果がある。一つは、明日の消費を(今日に比べ)割高にすることにより貯蓄需要を減少させる。もう一つは、実質金利の低下は、企業がまたMPK=rとなるまで資本を増やさなければならないことを意味するので(MPKが逓減的だったことを思い出そう)、投資を増加させる。こうして、貯蓄需要と投資需要がまた等しくなるまで実質金利は下がる。


LM曲線
LM曲線は、貨幣需要と貨幣供給が均等化する(Y,r)の組み合わせである。Yを横軸、rを縦軸に取った場合、この曲線は右上がりである。この曲線の導出のため、実質貨幣残高の需給が均衡している状態において所得が増加した場合を考えてみる。

1)
実質金利を変えないで所得を増加させると、上述と同じ効用最大化メカニズムにより、消費需要が増加する。
2)
消費購買需要の増加により、追加支出を賄うため、実質貨幣残高への需要が発生する。ここで貨幣供給は変わらないものとする。
3)
現金需要の高まりは債券の売却を促し、金利を上昇させる。