カナダからのブログ・なぜ投資ブームの後に流動性の罠が続くのか?

「Canucks Anonymous」エントリ紹介シリーズの3回目。今日は5/18エントリ

なぜ投資ブームの後に流動性の罠が続く傾向があるのか?


直近のエントリでは、マイナスの自然利子率が流動性の罠に転じることに関する私の見方を紹介した。その中で、マイナスの自然利子率が必ず不況につながるわけではないことを論じた。結局のところ、マイナスの自然利子率が意味するのは、あくまでも巨大な投資ブームである。そこにおいて私が述べたのは、資本の限界収益率が最近の投資ブームの反動で落ち込み、十分なリスクプレミアムを提供できなくなると、必要な水準の実物投資が行なわれなくなる、ということであった。


私の最初のエントリでは、マイナスの自然利子率が生じる簡単な例を示した。そのエントリを書いた主なきっかけは、自然利子率が実際にマイナスになり得るか否かについてのWCIブログでの議論であった。その議論においてStephen Gordonは、マイナスの自然利子率を得る一つの方法は資本の限界収益率が減耗率より小さいことで、そうした現象は基本的に使い道の無い資本が経済にのしかかっている(オーバーハング)ために生じることを指摘した。


こうした議論が、流動性の罠が巨大な投資ブームに続いて起きるということの説明になっている、というのが本エントリで私の言いたいことのすべてである。大恐慌、日本の罠、そして現在の状況のいずれにおいても、流動性の罠は資産価格の大いなる上昇の後に発生した。


罠が作動する前の資産価格急騰については、2つの解釈がある。一つは、将来の生産性上昇が高いと見込まれ、不確実性もそれほど無いと思われている場合である。その場合、資産価格が高水準にあるにも関わらず、予見されているリスクに見合うほど将来の収益率も高いと依然として思われている。そこに何らかの衝撃が加わると、罠が作動するわけだ。その衝撃とは、例えば商品価格の大きな上昇や、一見無害に見える金融引き締めが、将来の生産の成長をやや不確実にし、ほんの少しリスクプレミアムを上昇させることである。そうすると、実物投資と資産価格の下落が始まってしまう。


もう一つの解釈はもちろん、高い価格は低収益率の別名にほかならない、ということである。流動性の罠が作動する前に、非常に低い――場合によってはマイナスの――自然利子率が数年にわたって続いていたのかもしれない。それに、すべての事例で暴落の前にあれほどの大規模な株価ないし評価価格の高騰が起きていたのは、将来の生産性の上昇が大きいと予測したわけではないとすると、実質金利とリスクプレミアムが非常に低いと見込んでいたことを意味する。この場合も、将来の成長の予測分布への何らかの衝撃は、リスクプレミアムの上昇をもたらし、実物投資の減少を招く。


いずれの解釈を取った場合でも、その後の事態は悪化するだけである。初期の資産価格下落は、すべての事例で、レバレッジを掛け過ぎた金融システムのバランスシートを破壊した。信用仲介機能の突然の停止は、投資を一層停滞させ、それは(将来の資本ストックを減少させることにより)将来の生産の成長を引き下げ、貯蓄への欲求とリスクプレミアムをさらに増加させることになる。