少し前にMarginal Revolutionで、タイラー・コーエンが、1930年代より後の平時に、最も深刻な経済不況を経験した非共産圏の先進国はどこか、という質問を投げ掛けていた。
そして、回答としてこの論文を提示している。論文の著者は、ユーリ・ゴロドニチェンコ(Yuriy Gorodnichenko)、エンリケ・メンドーザ(Enrique G. Mendoza)、リンダ・テサー(Linda L. Tesar)の3氏で、タイトルは「フィンランドの大恐慌:ロシアより愛をこめて(THE FINNISH GREAT DEPRESSION:FROM RUSSIA WITH LOVE)」となっている。
論文によると、1991年から1993年に掛けて、ソ連の崩壊により、フィンランド経済は先進国では1930年代以降最大の経済落ち込みを経験したという。1990年の水準に対し、1993年にはGDPは11%、消費は10%、投資は45%低下した。また、失業率は4%弱から18.5%まで上昇し、株式市場は60%もの価値を失ったとのことである。
論文では、動学一般均衡モデルを用いたカリブレーションを行なっているが、彼らはその分析結果を用いて、このフィンランドの経験から次のことが言えると述べている。
- フィンランド版大恐慌は、ソ連の崩壊によるエネルギー価格の高騰と、ソ連向けに特化していた製造業が突然余剰化したことの2つの要因によってもたらされた。
なお、フィンランドは通貨危機と金融危機も経験したが、同様の経験をしたスウェーデンの経済の落ち込みは限定的だったことを考えると、恐慌はやはりソ連との貿易が原因だったと考えられる(フィンランドでは80年代前半にはソ連向け輸出が全輸出の25%に達した野に対し、スウェーデンではその比率は非常に小さかった)。
- 当初の貿易ショックは、実質賃金の硬直性によって大恐慌にまで発展した。
最後に彼らは、この結果は、今回の経済危機において、カナダ、メキシコ、中国といった米国の主要貿易相手国(なぜか日本は入ってない)が、労働市場の硬直性と貿易ショックの継続によってどの程度影響されるかを分析するのに有用だろう、と述べている。