ファントム・メナス

フェルドシュタインが地平線上のインフレについて懸念している。巨額の財政赤字と金融緩和が同時に進行している中で、長期金利がまだ将来のインフレリスクを織り込んで上昇していないのは驚きだ、と書いている。また、FRBは信用緩和で民間の各種証券を買い込んだが、これらは将来の資金吸収オペの材料に使えないだろう(∵民間銀行が買いたがらないので)、とハミルトンと同様の懸念も示している。


これを紹介したEconomist's ViewのMark Thomaは、FRBがインフレのリスクを冒して財政赤字をマネタイズするか、高金利のリスクを冒して財政赤字はそのままにするかの選択をいずれ迫られるだろう、と書いている。そして、ボルカーは似たような状況でインフレ鎮圧を優先したが、今回はどうなるか不透明だ、と書いている。Thomaはアコードという言葉こそ使っていないが、その必要性を念頭に置いているものと思われる。


一方、テイラーも議会証言でインフレへの懸念を述べているEconomist's View経由のウッドワード=ホールブログ経由)。ただ、そこでは財政赤字については触れておらず、FRBの超過準備の膨張をインフレ懸念の材料として挙げている。


それに対し、ウッドワード=ホールは、その時こそ、現在は金融緩和の足手まといになっていて、何で導入したのと皆に白眼視されている準備預金への付利が威力を発揮するのだ、と面白い反論をしている*1。景気が回復してテイラーの懸念するようにインフレの足音が近づいてきたら、この付利の金利を上げて、超過準備が市中に流れ出るのを抑えれば良い、というわけだ。

ただ、これについては、セントルイス地区連銀のエコノミストWilliam T. Gavinから、付利に掛かるコストのことを考えたら、必ずしもFRB単独で付利の水準を決められるとは限らない、議会の予算承認が必要になるかもしれない、という指摘がなされている(ウッドワード=ホールエントリの追記で紹介されている)。特に、イールド・カーブの逆鞘、GSEからの支払いの減少、不良債権の増加によってFRBの収入が減少したら、付利のコストがその収入を食い尽くす事態も考えられる、とのことである。してみると、この面でもやはりアコードが必要になるのかもしれない。


ちなみに、ウッドワード=ホールの上記エントリのコメント欄では、ロバート・ゴードンが、マネーサプライが増えても名目GDPが増えるとは限らない、従って物価もマネーサプライに連動するとは限らない、というコメントを寄せている。彼はその例として、マネタリストの信用を失墜させた1980年代の貨幣流通速度の低下のほか、1937年から1941年第一四半期までにマネタリーベースが83%も増えたのに価格が微減した事例を挙げている。

*1:ウッドフォード=ホールも、昨年10月という導入のタイミングと付利幅については弁護の余地が無いと書いている。スティーブ・ワルドマンサムナーと同様、現在はむしろ付利幅をマイナスにすべき、とも書いている。