ガイトナー・プットの定式化・数値シミュレーション・その3

スティグリッツガイトナー・プラン批判を読んでいて(マンキューブログ経由)、昨日31日の数値シミュレーションで、大切な変数をシミュレーションし忘れていたことに気づいた。

マンキューが引用したように、スティグリッツの批判のポイントは、"the Geithner plan works only if and when the taxpayer loses big time."ということにある。その納税者の損失(正確にはFDICの損失+財務省の損失*1)を、これまでのシミュレーションで表示し忘れていた。
ということで、そもそものタイトルでもあるガイトナー・プットの期待損失をこれまでのグラフに追加してみる。計算式は
 (1-p_1)(P_2-P_b(1-\alpha))
となる*2]
としたのを本文のように修正。以降のシミュレーションも同様に修正)。))。今回は対数正規分布のみ対象とし、確率p1の代わりにその期待損失をグラフに右軸表示した。

対数正規分布標準偏差シミュレーション)

31日のシミュレーションと同様、ln(P)〜N[Pm,σ]の対数正規分布を前提とし、Pの期待値を100に固定して、σを0.1から1.1まで0.05刻みに変更したのが以下のグラフ。


なお、横軸が対数正規分布標準偏差では少しイメージが湧きづらいかもしれないので、変動係数(=σ/Pm)にしてみたのがこちら。

変動係数が0.1だとE[P]の19%、0.2だと60%の損失が納税者にもたらされ、0.27を超えると実に90%台に達することが分かる。
ちなみに、E[P]ではなく実際の納税者の負担金=Pb(1-α)に対する損失比率を描いてみると、以下のようになる。

変動係数0.27で60%近い損失となる。

対数正規分布(αシミュレーション)

昨日のシミュレーションと同様、ln(P)〜N[ln(100)-0.5^2/2(≒4.48) , 0.5]の対数正規分布で(変動係数σ/Pm=0.11)、αを0.05から0.95まで0.05刻みに変更。
(実額)


(実際の納税者の負担金=Pb(1-α)に対する損失比率)

ノンリコースローン比率を7割程度に留めておけば、損失割合はP期待値、出資金いずれに対しても10%程度に抑えられることが分かる。3割ならば、1%以内となる。



[4/4追記]
このシミュレーションではファンドへのリターンがゼロと仮定しているので(∵Pbはあくまでもファンドの収益がゼロとなるブレーク・イーブン買取価格に設定している)、この納税者の期待損失は民間投資家の期待利益になるわけではない。ということは、第三のプレーヤー、即ち銀行の期待利益ということになる。もちろん、Pbがブレーク・イーブン値より高くなる可能性もあるが(既にそれに向けたゲームは始まっているという話もある)、仮にオークション市場で競争原理が正しく働いてPbがブレーク・イーブン値まで押し下げられたとしても、クルーグマンのいわゆる“銀行への補助金”が発生することには変わりない。
実際、今回計算した納税者の期待損失も、実は、E[P](本シミュレーションでは100に固定)とPbとの差額に過ぎない(シミュレーションの数字上もそうなるし、以下の式変形でも確かめられる)。
\begin{eqnarray}(1-p_1)(P_2-P_b(1-\alpha))&=&(1-p_1)P_2+P_b(p_1+\alpha(1-p_1))-P_b\\&=&(1-p_1)P_2+p_1P_1-P_b\\&=&E[P]-P_b\end{eqnarray}

*1:4/4追記:FDICの損失も納税者の損失と言い切ってしまって良いかは疑問の余地があるが、取りあえず本エントリではこのスティグリッツのレトリックを踏襲する。

*2:これまでのエントリではブレーク・イーブンPbに焦点を当ててきたので、βを無視し、αを自己資金比率と表現してきたが(∵ブレーク・イーブンPbの数式にβは入ってこない)、正確には自己資金比率はαβ。今回はこの比率で表される民間出資分を除いた損失を考える。
[4/4修正]:ただ、財務省出資分
  P_b\alpha(1-\beta)
ガイトナー・プットの対象であり、その期待損失は
  -(1-p_1)P_b\alpha(1-\beta)
に限定され、かつ、期待利益
  p_1(P_1-P_b)(1-\beta)
と相殺されるので(そもそもPbをそう設定している)、財務省の期待損益はゼロとなる。従って、納税者の損失としてはFDICガイトナー・プットの損失だけを考えれば良い。よって、やはりβを考慮する必要はなくなる。
(当初、算式を
  [tex:(1-p_1)(P_2-P_b(1-\alpha\beta