というわけで、引き続きこのネタ。
一昨日のエントリの後から追加した注では、価格Pの分布p(P)が分かっていれば、クルーグマンやサックスが使用した2状態モデルにおいて、価格P1とP2、ならびにP1の実現確率p1が、恣意的な数値例としてではなく、きちんと数学的に求められることを示した。また、エントリの本文では、P1からブレーク・イーブン買取価格Pbを求める式も示した。
本日は、3種類の確率分布関数(一様分布、正規分布、対数正規分布)を使用し、それぞれの分布を前提とした場合の実際の各パラメータの値を求めてみる。なお、以降では、α(自己資金比率)としてすべてガイトナー案の実際の値=1/7を用いた。また、シミュレーションに使用したExcelの式や関連する数学については末尾にまとめた。
一様分布
まずは、P〜U[0,PU]の一様分布を前提とした場合。
以下では一様分布の上限PUを100から200まで10刻みに変更し、対応する各変数をグラフにした。
確率p1のみ右軸にしてある(以下同様)。
一様分布なのでPの期待値E[P]は常にPUの半分となる。
また、PbのE[P]に対するマークアップ率は、常に32%であった。p1も一定値(0.4343)となる。一様分布のレンジを変えることは分布の性質の本質的な変更ではないので、これらの値に影響を及ぼさないわけだ。
正規分布
次に、P〜N[Pm,σ]の正規分布を前提とした場合。
ここではPmは100に固定し、σを15から75まで5刻みに変更して、対応する各変数をグラフにした。なお、σがこの範囲を上または下に超えると、解を安定的に求められなくなる。
E[P]は固定値なのでグラフからは省略した。
PbのE[P]に対するマークアップ率は、σと共に増加し、σ=75では50%を超える。P1もσと共に増えるが、逆にp1は低下していく。また、P2はいったん微増傾向を見せた後、緩やかに低下している。
対数正規分布
最後に、ln(P)〜N[Pm,σ]の対数正規分布を前提とした場合。
ここではPの期待値は(正規分布の場合と同様)100に固定し(注:ln(Pm)と一致しないことに注意;数学付録参照)、σを0.1から1.1まで0.05刻みに変更して、対応する各変数をグラフにした。
基本的な傾向は正規分布と同様であるが、正規分布では解を求められる範囲が比較的限られていたのに対し、こちらではより広い範囲の値が調べられるというメリットがある。
ちなみにガイトナー案を銀行に補助金を与えるものとして批判するクルーグマンの分析については、ポートフォリオ効果を無視しているという物言いが付いたが(Economist's View、AngryBear経由)、確かにσが小さければ、銀行への補助はそれほど大きくならないことがこのシミュレーションからも分かる。ただ、その物言いエントリに付いたコメントにあるように、そもそもポートフォリオ効果がきちんと働いてσが低く抑えられるような状況ならば、今般の危機はここまで深刻にならなかっただろう、という見方もできる。
以下は数学付録。
<一様分布>
[Excelの入力]
変数 | p1 | P1 | Pb |
---|---|---|---|
Excelの行/列 | A | B | C |
2 | 適当な初期値 | 適当な初期値 | =A2*B2/(A2+$G$2*(1-A2)) |
3 | =($I$2-C2*(1-$G$2))/($I$2-$H$2) | =($I$2^2-(C2*(1-$G$2))^2)/2/($I$2-$H$2)/A3 | =A3*B3/(A3+$G$2*(1-A3)) |
3行目のセルを適当な行まで(小生は41行目までとした)オートフィルすると、行を追って収束計算が行なわれる。
G2セルにはα(=1/7)、H2セルには一様分布の下限(上記では0固定)、I2セルには一様分布の上限を入力しておく。
変数 | p1 | P1 | Pb |
---|---|---|---|
Excelの行/列 | A | B | C |
2 | 適当な初期値 | 適当な初期値 | =A2*B2/(A2+$G$2*(1-A2)) |
3 | =1-NORMDIST(C2*(1-$G$2),$H$2,$I$2,TRUE) | =(EXP(-((((1-$G$2)*C2-$H$2)/$I$2))^2/2)*$I$2/SQRT(2*PI())+$H$2*A3)/A3 | =A3*B3/(A3+$G$2*(1-A3)) |
3行目のセルを適当な行まで(小生は41行目までとした)オートフィルすると、行を追って収束計算が行なわれる。
G2セルにはα(=1/7)、H2セルには平均Pm(上記では100固定)、I2セルには標準偏差σを入力しておく。
[数学付録]
(途中で(P-Pm)/σ→tに変数変換)
変数 | p1 | P1 | Pb |
---|---|---|---|
Excelの行/列 | A | B | C |
2 | 適当な初期値 | 適当な初期値 | =A2*B2/(A2+$G$2*(1-A2)) |
3 | =1-LOGNORMDIST(C2*(1-$G$2),$H$2,$I$2) | =(1-NORMDIST( (LN(C2*(1-$G$2))-$H$2)/$I$2,$I$2,1,TRUE))*EXP($I$2^2/2+$H$2)/A3 | =A3*B3/(A3+$G$2*(1-A3)) |
3行目のセルを適当な行まで(小生は41行目までとした)オートフィルすると、行を追って収束計算が行なわれる。
G2セルにはα(=1/7)、H2セルには対数変換後のPの平均Pm、I2セルには標準偏差σを入力しておく。上記ではPの期待値を100固定にするため、H2には式「=LN(100)-I2^2/2」を入力した(下記[数学付録]参照)。
[数学付録]
(途中で(ln(P)-Pm)/σ→tに変数変換)