単位根なんかいらない

昨日のエントリでは、「コント:ポール君とグレッグ君:2009年第3弾」を巡るコーエンとキャプランのやり取りを紹介し、併せて彼らの議論で見過ごされていると小生が考えた点(ペイオフの構造から考えてマンキューには賭けのインセンティブがあるがクルーグマンには無い)も書いた。その後、その小生の考えをコーエンのエントリにコメントしてみたところ、予想外の反応があった。


といっても、反応したのはコーエン自身ではなく、コーエンやキャプランと同じくGMU James Madison University(JMU)で教鞭を取るバークレー・ロッサー。Wikipediaによると、数理経済学者とのことだが、その自伝の項の半分くらいは、いかに障害を乗り越えてソ連の女性研究者と結婚したかという記述に費やされている。なお、同名の父親はチャーチ・ロッサーの定理で有名な(といっても門外漢の小生にはどんな定理か良く分からないが)数学者だったらしい。


予想外の反応と書いたが、ロッサーは小生の少し前にコメントしていたので、小生のコメントを彼への反論と受け止めたらしい(実際のところは、小生がそれまでのコメントの流れを碌に読まずに投稿したというのが真相)。
彼は、小生のコメントに対して、再び自分の主張を繰り返している。その主張とは、そもそもクルーグマンオバマ政権の財政支出額は小さすぎると思っているのに、オバマ政権の薔薇色の経済予測を賭けの対象にするのはおかしい、つまりその賭けはそもそもマンキューに有利に仕組まれたものになっている、というもの。また、最初のコメントでは、賭けで決着をつけようというのはマッチョ志向の発想で、一種の思考停止にほかならない、というようなことも書いている。
賭けが一種の思考停止という考えには小生も賛同するが、賭けの対象となる経済予測の値が問題という点については、単にクルーグマン側がもう少し低い値を逆提案をすれば済む話のようにも思われる。


ただ、彼のコメントで小生が一番面白いと思ったのは、そうした賭けに関する箇所ではなく、単位根をくさした以下の部分。

On this matter of unit roots, frankly, and despite his personal unpleasantness in the matter, Krugman is simply correct. The current literature in time-series macroeconometrics no longer supports the view that Mankiw pushed. This conclusion was not driven by people who foresaw that Mankiw would want to use this now-out-of-date view of unit roots to criticize the efficacy of a proposal by Obama. It has been around for quite some time now.

単位根というのは今や時代遅れの考えであり、それはかなり前から言われてきた話だ(別にマンキューを批判したいがために誰かが言い出したわけではない)、とのことである。


ちなみに、Worthwhile Canadian Initiativeでは、「単位根ゾンビ:お前はもう死んでいるのに混乱をもたらし続ける(The unit-root zombie: Dead, but still wreaking havoc)」という過激なタイトルのエントリで、同様に単位根を批判している。書いたのは、お馴染みのNick Roweではなく、このブログのそもそもの開設者であるStephen Gordon。

彼は、自分の以前(1997年)の論文(不当に無視された、と自ら評している)から、以下の考察を引用している。

[T]he information contained in the data is not uniformly distributed across the sample; information about the appropriate model for both the stationary and non-stationary component of US GDP appears to be concentrated at data points that are generally associated with business cycle turning points. Since turning points are relatively rare - the NBER identifies 16 over the period 1952-1994 - it is perhaps unsurprising that it has proven to be difficult to make definitive conclusions about the nature of the trend in output.

定常性か非定常性かを決める情報はGDPの時系列データに均一に存在しているわけではなく、景気の転換点に集中している、従って判定に使えるデータの数は限られる、との由。
このエントリのコメント欄では、Nick Roweの質問に答えて、「The unit root really only matters in the very long run, and we (usually) don't have that kind of data.(単位根は超長期で問題になるが、我々は[通常]それだけのデータを持っていない)」とも書いている。


なお、Gordonは、このエントリの締めくくりでは、「The world would be a better place if we could all agree that that the whole unit root literature never existed(この単位根というものがそもそも世に存在していなかったことにできたら、世界はもっと住みやすい場所になるだろう)」とまで書いている。