グローバル・インバランスの同時決定?

昨日のエントリでカバレロの銀行救済案を紹介したが、カバレロの危機全般に関する論説もその少し前(1/23)にVoxEUに掲載されている(前編後編池田信夫氏がその内容を要約している)。
その主旨は、ナイトの不確実性が今回の危機の原因、というものである。そして、解決策として、ナイトの不確実性に侵食された市場において、政府が保証人の役回りを引き受けるべし、ということを提案している。彼はその提案の説明に当たって、分かりやすい簡単な例を挙げてる。即ち、AとBがスワップ契約を結んでいて、事態Xの時にはBがAに1ドル払い、事態Yの時にはAがBに1ドル払うことになっていたものとする。そこへナイトの不確実性が生じると、AとBそれぞれについて1ドル、計2ドルのデフォルトの恐れが発生するが、実際に契約の履行に必要なのは1ドルだけである。よって、政府がその1ドルを資本とした保証を提供すれば、AとBの個々に1ドルを注ぎ込んで救済するよりも効率的な解決策となる。
また、彼は、後編の最後で金融機関への資本注入について触れ、パニック発生後の低株価を基準に資本注入を行なうのは、ナイトの不確実性に基づく価格での保証提供ということになるので却って事態を悪化させてしまう、従って長期的な株価を基準に資本注入を行なうべし、と書いている(こちらの考えをより詳しく説明したのが、昨日紹介した論説ということになる)。


ただ、カバレロの分析で一つ気になったのは、グローバル・インバランス、すなわち米国の貯蓄不足を発展途上国(や日本)の過剰貯蓄が埋めたという1990年代末以降の現象について、米国の金融商品がそれらの資金を引き付けたため、と説明している点である。これは、実物取引(=輸出入)の結果である経常収支の不均衡の裏返しとして資本収支の不均衡が生じる、という通常のISバランス論とは逆に、資本収支の不均衡が主で経常収支の不均衡が従、と主張しているように読める。個人的にはちょっと首肯しがたい説明である。


ちなみに、グローバル・インバランスについて言えば、貯蓄過剰側が悪いと言わんばかりの論調には賛成しかねる、という小生の持論はこれまで何度か述べてきたが(たとえばここ)、このブログでは、量子力学波動関数のアナロジーを使い、米国の貯蓄不足と発展途上国の過剰貯蓄は同時決定的に発生したのではないか、従ってどちらがどちらの原因である、ということを決定する(ましてやそれが危機の原因であるとする)のは無理があるのではないか、という面白い論考が書かれている。安易に因果関係を推測することへの警告という点では、マンキューブログで紹介されたこの漫画にも通じる話かと思われる。