谷深ければ山高し…か?

気がついたらクルーグマンとマンキューがまたブログで丁々発止とやりあっていた。というわけで、「コント:ポール君とグレッグ君」の2009年第3弾。
(…もっとも、去年までの当てこすりや皮肉と違い、段々お互いへの攻撃がマジになってきたので、そろそろコントと呼ぶのも辛くなってきたかも)

グレッグ君
オバマ政権のCEAが出した経済予測分析には、景気後退はリバウンドを伴い、経済の低い成長率の後には高い成長率が続く、という一節がある。どうも彼らは経済のトレンド定常仮説を仮定しているみたいだけど、実は、僕とキャンベルの昔の共同研究では、単位根仮説が支持されたんだ。トレンド定常仮説のもとでは、経済成長には一定のトレンドがあるので、彼らの言うように低い成長率の後には高い成長率が続くことになる。でも、単位根仮説のもとでは、そうしたトレンドは存在しないので、必ずしもそうはならない――つまり、低い成長率の後にまた低い成長率が続く可能性も十分ある、そもそも、景気後退の終了期というのは後から分かるものであり、神ならぬ身に事前に分かるはずもない。だから、彼らが証拠データとして示した景気後退終了後という条件付き期待値ではなく、条件無し期待値を考えるべきなんだ。

また、彼らは、平均より深刻な景気後退の後には平均より早い回復があったことを表す面白い図を示している。ただこれも、トレンド定常仮説の単位根仮説に対する優位性を示しているとは必ずしも言えない(そもそも彼らは二番底があった1980年の景気後退をサンプルから除外している)。経済の変動が激しい時期には、上にも下にも成長率が大きく振れるものなのさ。

まあ、もちろん、単変数のモデルで言えることには限界がある。彼らの方が正しければ良い、と僕も思うよ。今は経済の良いニュースが必要とされているからね。
ポール君
デロングの言うように、溜息をつくしかないね。僕はいつも、単位根とやらには物事をわざと分かりにくくしている面があると思ってきた。だって、1973-1995年の生産性の低下と、深刻な不況との区別がつかないことを前提にするんだもの。一つ確かなのは、資源の利用度を表す指標、たとえば失業率や稼働率には単位根は無い、ということだ。失業率は高くなればいずれは落ちる。これとオークン則を組み合わせれば、今の不景気は将来の高成長につながると言っていいのさ。
大体、今の資源の遊休状況を見過ごすとはどういったことかね。そう、それらがまた使われれば、高成長が期待できるんだ。
グレッグ君
ポール君はエントリのタイトルを「邪悪の根」としているけど、僕の懐疑論を邪悪と言うんだね。そこまで言うなら、君のノーベル賞賞金の一部を、オバマ政権のGDP予測――彼らの成長率予測を積み重ねると2013年のGDPは2008年より15.6%高いことになる――が当たるかどうかに賭けてみるかね? 僕はギャンブルは得意じゃないけど、喜んで受けて立つよ(経済のためには負けたほうが良いと僕も思うし)。
あと、ポール君が挙げたような単位根にまつわる疑念は、もう一つのキャンベルとの共同論文で検討済みなんだ。その上で、今のような主張をしているんだよ。まあ、ポール君は何だかんだ言ってもマクロ経済の実証の専門家ではなく国際経済理論の専門家だし、この分野の文献にすべて通暁するのは誰にとっても至難の業だから、僕らのその論文を知らなくても責めはしないよ。

あと、デロングがブログで示した失業率と将来の経済成長率の関係を示す回帰直線だけど、レーガン時代の好景気に引っ張られているんじゃないかね。…ああ、イーストカロライナ大学のフィル・ロスマンの分析によると、その時代の8四半期を外すと、確かに決定係数が11%から5%に、t値が3.5から2.1に落ちるそうだ。このデータも賭けの参考にしてくれたまえ。

ああ、あと、このAER論文の実証研究では、金融危機や政治危機による生産の落ち込みは、その後回復しない、という結果が出たそうだよ。