レイン嬢の行方

レベッカワイルダー2/10エントリで、昨年12月以降のFRBのバランスシートの縮小について取り上げている。


実はこの話は既出で、Econbrowserのジェームズ・ハミルトンが早くも1ヶ月前に「雪解けの兆候」と題して取り上げている
また、Hicksianさんが2/7エントリで紹介されたように、ウッドワード=ホールは、2/4エントリで、緩和政策と言いつつFRBのバランスシートは縮小しているではないか、と疑問を呈した。これに対し、アトランタ連銀のmacroblogの2/6エントリでAltig、Robertson両氏が、バーナンキのロンドン講演やEconomist's Viewの2/3エントリのTom Duyの見方を引用しつつ、量的緩和政策ではなく信用緩和政策だから良いのだ、と反論している*1


ワイルダーFRBバランスシート縮小の原因に関する分析は、ハミルトンやmacroblogと同様、信用市場が安定化したことにより、FRBがCP買い取り(CPFF)と通貨スワップを縮小したため、というものである。彼女は、FRBの直近の公表資料を例に引いて、1/29-2/4の週の前週比縮小幅1490億ドルのうち、569億ドルがCPFFの縮小、770億ドルが通貨スワップの縮小によるものであったことを示している。


ただ、ハミルトンが上述の1/11エントリでFRBの政策が効を奏し始めたと楽観的なトーンで書いているのに対し、このエントリでのワイルダーは悲観的である(ちなみにワイルダーも12月には楽観的だったが、1/26エントリで悲観論に転じている)。というのは、今後、FRBのバランスシートを再び拡大させるであろう以下の要因も存在しているからである。

  • NY連銀が購入したMBS917億ドルのうち、まだ74億ドルしかバランスシートに現れていない(この点は上述のmacroblogでも触れられている)。これは決済に時間が掛かるためとの
  • TALFの拡大(cf.ワイルダー次のエントリでは現行の2000億ドルから1兆ドルに拡大するガイトナー案が取り上げられている)


さらにワイルダーは、別の悲観要因として、ベア・スターンズAIG救済に対する融資からFRBが損失を蒙っていることを指摘している。それらの融資は、メイデン・レインというLLCに貸し出している形になっているが、そのバランスシート上の時価評価額が減少しているという*2。この損失は、今後のFRB銀行救済の行方を暗示しているのだろう、とワイルダーは書いている。

*1:ただし、「In our opinion—and we rush here to add that is only our opinion」と付け加えることを忘れてはいない。…それにしても、地区連銀の職員がこうして職場のブログから公的見解ではない意見を発信できるというのはやはり米国ならでは、という気がする。日銀の支店が同じことをやったら大騒ぎになるだろう。まあ、そもそも、adhocさんがこのコメントで指摘されたように、トップと異なる経済学派の大物学者がFRB地区連銀総裁に任命され、その意見の違いがまたストレートに表に出てくる、というところからして彼我の大きな違いがあるわけだが。

*2:メイデン・レインとは随分妙な名前を付けたな、と思ったが、加藤出氏のこの記事によると、ニューヨーク連銀の従業員出入口が面している通りの名称から取ったとの由。この人のファンからすると微妙な気分にさせられるネーミングではある。