政策効果の測定と鼓腹撃壌・続き

昨日紹介したknzn氏のブログエントリには元ネタがあって、それがカナダ人経済学者Nicholas Rowe氏のブログである。こちらでは、もう少しフォーマルに、政策効果の測定の難しさを説明している。


その内容をざっと紹介すると以下のようになる。

財政政策をF、金融政策をM、それ以外の情報をIと記述すると、財政政策は、それら(=F,M,I)についてのGDP(=Y)の条件付き期待値が、目標Y*と等しくなるように実施される。
  E(Y|{F,M,I}) = Y*
しかし当然ながら目標が完全に達成されることはなく、予測誤差Y'が生じる。
  Y' = Y-E(Y|{F,M,I}) = Y-Y*
財政当局者の合理的期待を仮定すると、その予測誤差Y'は、{F,M,I}の情報セットのいずれの要素とも無相関になる。従って、Y*が定数か、もしくは一定の伸び率で成長していると仮定すると、YとF(およびYとM、YとI)も無相関になり、財政政策(および金融政策)が生産に影響を及ぼしているという証拠は得られなくなる。これは、目的変数がインフレ率の場合も同様である。


さらに厄介なのは、FとMが無相関ではない点である。統計的な分析のためには、説明変数同士が独立であることが望ましいが、そのためには金融政策と財政政策がお互いについて関知しない、という関係にある必要がある。しかし現実世界ではもちろんそれは成立せず、金融と財政は普通は多かれ少なかれ政策協調する。そのため、多重共線性の問題が生じ、計量経済学が役に立たなくなる*1


なお、Roweは、続くエントリで、マンキューとネイト・シルバー氏の論争を取り上げ、ルーカス批判との関連を指摘している。つまり、外生的な政策は、ルーカス批判の文脈で言えば予期されない政策であり、人々の政策レジーム予想に変化を及ぼすが、内生的な政策は予期された政策なので、人々の予想に変化を及ぼさない。その意味では、シルバーの言うように、外生的な減税政策の効果を、そのまま不況対策という内生的な減税政策に当てはめるマンキューの考え方は確かに問題だ、ということになる。

代わりにRoweが提案するのは、上記エントリの論理を敷衍し、政策と目標の相関が無いことを成功の証拠と考え、そうした無相関の時期の政策レジームを範とすべし、というものである。具体的には、財政政策と金融政策の反応関数が安定していた時期を取り上げ、その期間内において1年後の目標変数(インフレ率、失業率、等)が予測できるかどうか試してみよう、と提案している。もし予測できなければ、その時期の政策が正しいことになるし、予測できるようであれば、その目標の予測に役立つ変数をピックアップし、それを政策の指針に加えれば良い、というわけである*2

*1:ここの論理には異論がありそう。本人もコメント欄で"By the way, my views about monetary and fiscal policy above are decidedly non-standard. I think most economists would disagree with what I wrote. And they could be right, and I could be wrong."と書いている。素人考えでは、金融と財政は、生産かインフレ率かどちらかだけを目標にするのではなく、両者を目標にするのだから、ティンバーゲンの定理を想起すれば、連立方程式になり、財政と金融の変数をうまく直交化して分析できそうな気もする。

*2:Roweが以前書いた論文(最初のエントリで紹介されている)は、カナダのインフレ目標を例にとってその辺りを詳しく分析している。