FRBは産業政策をしているのか?

昨日のエントリのリンク元を見ると、山形さんのところから500以上のアクセスがあった。同時に山形さんに紹介いただいた9日のエントリもほぼ同数のアクセスがあり、改めて山形さんの影響力の凄さを知った。感謝感激多謝多礼。


その昨日のエントリで触れたnight_in_tunisiaさんエントリでは、テイラーのFRB批判についても取り上げられている。彼のFRB批判については以前紹介したことがあったが、そこでの批判はバブルを膨張させてしまった責任と、現在の政策の無効性に焦点が当てられていた。

一方、タイラー・コーエンが紹介したロイター記事によると、今年初めに、テイラーはそれとはまた別の側面からのFRB批判を行なったようだ。同記事では、AEAの年次総会のパネル討論での彼の発言を採録しているので、以下、彼の発言部分を抜き書きしてみる。

The Federal Reserve has embarked on a campaign of unsupervised industrial policy to end the country's financial crisis, a move that could undermine its independence.

FRBは、金融危機を終わらせるため、監視されない産業政策に乗り出したが、この動きはFRBの独立性を毀損しかねない。

This doesn't really seem like quantitative easing in the sense of finding a growth rate in the money supply.
What you are looking at now is really being determined by other considerations. How much should we buy of mortgage-backed securities? How much should we loan to foreign central banks? This is really more like an industrial policy.

これ(FRBの政策)は、マネーサプライの(適切な)成長率を見出すという意味での量的緩和にはまるで見えない。
我々が今目にしている政策は、実際のところ、それとは別の動機により決定されている。どれだけモーゲージ担保証券を買うべきか? どれだけ海外中銀に貸し付けるべきか? これではまるで産業政策だ。

If you have a situation where the Fed is borrowing to invest in all these sectors it seems to me you have a huge governance issue...that demands a lot of thought.

FRBがこれらの産業に投資するために借り入れを行なっている状況は、私には大いにガバナンスの問題があるように見える。…良く考える必要がある。

the U.S. Congress has a legitimate right to demand a say in who the Fed lends money to. The outcome would be "radical reform" that would risk monetary policy independence.

議会はFRBの貸出先に注文を付ける法的権限がある。その結果として、金融政策の独立性を脅かす「抜本的改革」が実施される恐れがある。


なお、記事によると、ジェームズ・ブラード・セントルイス連銀総裁もパネル討論に参加し、テイラーの懸念に呼応するような発言を記者に漏らしたと言う。

close collaboration between the Fed and U.S. Treasury in fighting the crisis could have unintended consequences.

危機に対処するためのFRBと政府の密接な協力は、思わぬ結果をもたらす可能性がある。

We are blurring the institutional arrangements a little. I am concerned about independence. Fed independence is very important.

我々は制度的取り決めを少しぼかしている。私は独立性について心配している。FRBの独立性は大変重要なものだ。


レベッカワイルダーは、12月15−16日のFOMC議事録を分析したエントリで、FRBのコミュニケーション技術の拙劣さをあげつらっていたが、こういう批判記事を読むと、確かにもう少し市場や学界とコミュニケーションを取り、政策への理解の努力を払った方が良いのでは、と余計な心配をしてしまう。
そのFOMCでは、インフレ目標をそうしたコミュニケーションのツールとして使うことも検討されたようだが*1、素人考えでは、もっと言葉によるコミュニケーションにも気を配った方が良いような気もする。昨日紹介した(レイアならぬ)ジャネットだけではなく、ベンの発言ももう少し各エコノミストのブログで取り上げられるようになった方が、FRBへの理解を深めてもらう上で望ましいのではないだろうか?(…まあ、以前の舌禍事件に懲りているのかもしれないが)
小生の狭い知見の範囲ではあるが、米国のブログ界ではバーナンキに批判的な空気が徐々に広まり、むしろ日本のブロガーの方がバーナンキを支持しているように見える、という現在の状況は、奇妙といえば奇妙である。

*1:night_in_tunisiaさんのこのエントリでもその辺りが紹介されている。