マンキューがこのところブログで、財政による景気刺激策への疑念を露にしている。そこで、これまで出てきた各経済学者の財政刺激政策に対するスタンスを簡単にまとめてみた。
フェルドシュタイン
サマーズ
社会を転換させるような技術への公共投資。
「speedy, substantial and sustained over a several-year interval」であるべき。
(1月時点では「temporary, targeted, and timely」を標榜していたが、情勢悪化により宗旨替えをした模様)
テイラー
裁量的財政政策には反対(その旨の議会証言もしている)。恒久所得仮説から考えると、一時的な減税は効果が無い。これまでのブッシュ減税を恒久化すれば良い。また、財政の自動安定化装置だけでGDPの2.5%の効果があることを認識すべし*1。
キャッチフレーズは、「permanent, pervasive, and predictable」*2。
なお、彼のこの立場は今に始まったものではなく、マンキューがブログで紹介した2000年の論文でも同様の趣旨が述べられている。
コーエン
懐疑的。
財政刺激派は、以下の2つの主張を使い分けるが…
しかし、第二次世界大戦やナチスドイツ時代を含め、財政刺激策の効果が実証されたことは一度も無い。積極派が具体的な証拠を示さない限り、賛成できない。
なお、クルーグマンは、上記のテイラーの論説に猛反発した。曰く、テイラーは良い経済学者になろうと思えばなれるのに、この提案は意味をなしていない、要は(テイラーが仕えた)ブッシュ政権の政策を永続させたいのか、とかなりきつい調子で難詰している。
特にクルーグマンが反発したのはテイラーの以下の文章である。
The theory that a short-run government spending stimulus will jump-start the economy is based on old-fashioned, largely static Keynesian theories. These approaches do not adequately account for the complex dynamics of a modern international economy, or for expectations of the future that are now built into decisions in virtually every market.
これに対するクルーグマンの解釈は
Translation: la la la I can’t hear you.
つまり、テイラーは、単にクルーグマン等の主張に対し「あ、あ、あ、聞こえない、聞こえない」と耳を塞いでごたくを並べているに過ぎない、と決め付けている。また、クルーグマンとスタンスの近いMark Thomaも、ニューケインジアン理論はcomplex dynamicsもexpectations of the futureも取り込んでいるよと、テイラーを諭している(尤も、テイラー自身もニューケインジアンに分類されるのだが…)*3。
ただ、テイラーがそこで提示した、今春の戻し減税は効果が無かったことを示す図は、ロバート・ホールなども援用している。フェルドシュタインが戻し減税の効果は無かったと述べたときに反発したマンキューも、この図の前では黙ってしまったようである。
また、財政刺激策に関する議論では、乗数効果も論点となるが、それについては、ロバート・ホールらのこのエントリが注目を集めた。ここで彼らは、第二次世界大戦も朝鮮戦争も1の乗数効果しかもたらさなかったことを示している。だが、トラックバックでクルーグマンが配給制の影響を指摘したほか、コメント欄でロバート・ゴードン(生産性の研究で有名)も同様の指摘をし、「経済学は、モデルや回帰分析から、二つの変数を並べたチャートへのちょっとしたコメントに退化してしまったのか」と強烈に皮肉っている。
そのホール等の分析を含めた乗数効果の全般的な話は、マンキューがこのエントリでサマライズしている。そこでは、伝統的なケインジアン・モデルに反し、減税の方が財政より乗数効果が高い、という実証結果が紹介されている。マンキューは、それを、(今まであまり考えられてこなかった)投資の活性化を通じた効果によるものではないか、と推測している。
しかし、冒頭で述べたとおり、マンキューは財政刺激策に反対と言わないまでも懐疑的な姿勢を強めており、金融政策でまだやれることがあるはず、と主張している。