あの金で何が買えたか〜米国編

あの金で何が買えたか―バブル・ファンタジー村上龍、はまのゆか著)という本があったが、その米国版ともいうべき図表ブログ界で出回っている。
内容は、今年の救済劇に使われた費用4.6165兆ドルは、これまでの米国史の主な支出の現在価値合計よりも大きい、というもの。グラフ化したのはVoltageというマーケティング会社のブログで、数字のソースはThe Big Picture
対象となった米国史の主な支出は以下の通り。

支出内容 支出額 インフレ調整後
マーシャルプラン 127億ドル 1153億ドル
ルイジアナ購入 1500万ドル 2170億ドル
月面探査 364億ドル 2370億ドル
S&L危機 1530億ドル 2560億ドル
朝鮮戦争 540億ドル 4540億ドル
ニューディール(推計) 320億ドル 5000億ドル
イラク戦争 5510億ドル 5970億ドル
ベトナム戦争 1110億ドル 6980億ドル
NASA 4167億ドル 8512億ドル
3.92兆ドル

The Big PictureのBarry Ritholtzは、この合計値は今回の救済劇のこれまでの費用より6860億ドル少ないこと、および、単独で上記の費用に匹敵するのは第二次世界大戦(2880億ドル、インフレ調整後で3.6兆ドル)くらいだが、それでも約1兆ドル少ないこと、を指摘している。また、最終的には救済費用は10兆ドルまで膨らむのではないか、という見通しを示している。


それに対し、スティーブ・ワルドマンは、こうした比較に潜む陥穽を指摘している。

We have some idea what we paid for, for example, with the $851,000,000,000 for NASA. We bought space shuttles, satellite systems, a moon shot, planetary probes, a lot of research and development, some air bases and research facilities.


What are we buying when the government purchases mortgage-backed securities, or buys preferred shares of banks that can only pay if a portfolio of real-estate loans does not totally sour? We are buying "paper", right?


No. We are not buying paper. Ironically, the pejorative term "paper" hides what we are actually doing in a way that is overflattering. All of the iffy securities that are weighing down the banking system represents money already spent on real projects or consumption. When the government purchases a security, it is taking the place of the party that originally fronted money for that expenditure. Every penny of government "investment" is retroactive expenditure on housing, real-estate, consumer credit, whatever.

(拙訳)NASAのために払った851,000,000,000ドルの使い道について、我々は頭に描くことができる。我々は、スペースシャトル、衛星システム、月面探査、惑星探査、数々の研究開発、航空基地や研究所を買ったのだ、と。


政府がモーゲージ担保証券や銀行の優先株を買う時――それらは不動産ローンのポートフォリオが駄目にならなかった段階で初めて元が取れる――我々は何を買っているのか? “紙”を買っているんだね、そうだろう?


いいや違う。我々は紙を買っているわけではない。皮肉にも、「紙」という軽蔑的な言葉を使うと、我々が本当は何をしているのかをべったりと蔽い隠してしまう。銀行システムにのしかかっている怪しげな証券は、すべて、実際のプロジェクトや消費に既に使われた金を表しているんだ。政府が証券を買う時、最初にその支出を賄った組織の肩代わりを務めていることになる。政府の「投資」は、一銭残らず、住宅や不動産や消費者信用などへの過去に遡った支出になっている。

So, in economic substance, the government is currently spending through a financial time machine on the exurban subdivisions and auto loans of several years past. We are retroactively turning in the entire mid-decade "boom" into a gigantic Keynesian stimulus project. Apparently that stimulus was not so successful, since we are likely to enact a brand new massive stimulus very soon. To be fair, it should be easier to design a good stimulus program in the present tense — financial time machines are persnickety things. But the expenditures we are planning to undertake and the "investments" we are making via the universal bail-out are not so different in kind.

(拙訳)だから、経済的な意味では、政府は今、金融タイムマシンを通じて数年前の遠郊外分譲地や自動車ローンを払っていることになる。我々は、00年代半ばの「ブーム」を、遡及して巨大なケインズ的刺激策に転換しているんだ。ご存知の通り、その刺激策はうまくいかなかった――だからこそ、近々また新たな巨大な刺激策を実施しようとしているわけだ。まあ、現在形で刺激策を考える方が易しいのは確かだ――金融タイムマシンは扱いが厄介な代物だ。しかし、我々が今からやろうとしている支出と、産業界救済を通じて行なっている「投資」は、それほど違う種類のものではない。


このワルドマンの指摘は、前述の村上龍の本についてもそのまま当てはまるだろう。