サマーズ「金融立国って駄目じゃんかよ」

三村マサカズ風のツッコミをタイトルにしてみたが、ここでいうサマーズはもちろんこちらではなくこちら


31日のエントリで、最近「財政政策に関する議論が活発になっている」と書いたが、Economist's Viewマンキューブログで紹介されたサマーズの提言もその一つである。


サマーズはその中で、短期的な金融危機対策はもちろん必要だが、これを好機として生産性を高める政策を推進すべき、と主張する。心臓発作を起こした人がダイエットや運動に関する忠告を以前より神妙に聞くようになるのと同様に、次期政権ではそうした政策が実行しやすくなっているはずだ、と彼は言う (そういうあんたも少しダイエットした方がいいんじゃないの)
何が生産性を高めるのかは経済学者も良く分かっていない、と彼も認める。しかし、transforming investments and technologies= トランスフォーマー 社会の転換をもたらす投資や技術が成長をもたらす、とは言えそうだ。歴史を振り返ってみると、交通手段や電気機器の発達が戦後の成長をもたらしたが、エネルギー価格の高騰により終息した。90年代から00年代前半にかけてはIT技術の発達が成長をもたらしたが、その効果も現在は薄れつつある。そこで、また社会の転換をもたらすような技術――短期的に需要を刺激し、長期的に生産性を向上させるような――を見出して投資すべき、と彼は主張する。例として挙げるのは、再生可能なエネルギー技術、バイオ、ブロードバンド、といった分野である。
そして、彼は、金融主導の経済成長にダメだしをする。そうした成長は一部の人間への過剰な富の集中をもたらし、かつ、それによる富は一時的なものに過ぎない。2006年に米国の企業利益の4割が金融セクターに行ったこと、最富裕層1%の収入比率が倍増したことは、何かおかしい、というのが彼の見解である*1
だから、税制や監督面で金融分野への規制をより強めるべき、そして、弱者救済により注力すべき、ともろに民主党ちっくな主張を彼はこの記事の結論部で展開する*2。つまり、より政府の役割を拡大する方向にまた振り子が振れることになるが、それは正しい、というのがサマーズのこの記事の主旨である。


このサマーズの米国への提言は、以前、このエントリで紹介した財務長官当時の日本への提言と基本的には同じである*3。つまり、マクロ政策で構造改革を推進、という彼の立場は一貫している、と言える(Economist's Viewは、いみじくも紹介記事のタイトルを、シュンペーターのCreative destructionをもじってCreative Reconstructionとしている)。彼が推奨するそうした政策は、(経済学者の間では忌み言葉となっている)産業政策と受け取れなくも無い。


Wikipediaの記事では、オバマ政権ならばサマーズが財務長官に再登板か、と書かれているが、もしそうならば彼はこの提案を実践する立場になる。その時、バーナンキと組んでどのように政策を推進していくか見ものではある。少なくとも、Hicksianさんが紹介した以下の記事のように、奴ら自分がしていることを何もわかっちゃいない、と痛烈に批判されるような事態はもう避けてもらいたいものだ*4

Our two top policy makers Poulson[sic] and Bernanke have been acting as if the world is coming to an end without explaining why. Their behavior is the worst behavior by central bankers I have seen during my career as an economist. There have been days of complete chaos and panic on the stock market, and at no time have either of the two bothered to appear on television to explain to the general public what they think is going on. Bernanke speaks to no one and Poulson[sic] only to bankers. The two of them have indicated at various times that the problem is so severe that if things in the financial sector aren't fixed within periods as short as a day or a week the economy will collapse. They have never come close to giving an adequate explanation of why they have these beliefs. Two explanations come to mind: they don't know what they are doing, the conclusion that I and I think the markets have reached, or that they know something we don't know. If it is the latter it is long past time they explain what it is.

Against Monopoly

*1:マンキューは、この部分を引用して、じゃあ(今回の金融危機で)最富裕層に所得が集中する問題は解決したんだね、と述べている。民主党嫌いだがサマーズは尊敬しているため直接の批判を避けた彼の精一杯の皮肉のように読める。

*2:econ2009さんが竹森俊平著「資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす」を紹介したエントリによると、金融面での規制には昔は彼は乗り気ではなかったとの由。ちなみに、そのエントリで取り上げられている2005年のジャクソンホールの会議の模様は、ここでも簡単に紹介されており、問題のラジャンの報告、および、サマーズ等のラジャンへの批判もリンクされている。

*3:紹介した、といっても来日した時の2000/01/22日経会見記事のタイトル「投資と雇用 創出を/米財務長官会見/構造改革を重視/マクロ政策で成長下支え」だけだが。

*4:この中の「Bernanke speaks to no one and Poulson[sic] only to bankers.」という一節は特にわさびが効いている。このバーナンキ評は、ここで紹介したマンキューの呼びかけにも通じる。ちなみにマンキューはこんなエントリも立てているが、そのリンク先のスクールウォーズのテーマ曲に乗せた紙芝居もわさびが結構効いている。