今日で最終回。調整インフレ論をテーマにしているが、これを書いた当時(7年前)は、インフレターゲットよりも調整インフレ論が金融政策に関する議論の中心だった。
<金融政策(2)>
●調整インフレ論
クルーグマンvs日銀他
- クルーグマン
- 今の日本は流動性の罠(Liquidity trap)に陥っている。名目金利はゼロまで低下しているが、デフレのため実質金利はまだ高い。これを脱出するには人々にインフレ期待を持たせるしか無い。それには日銀がインフレを起こすという方針を目指していることを明確にし、(金利面ではもうこれ以上手が打てないので)潤沢に資金供給をすべき。
- 日銀他
- 中央銀行としてインフレを煽るような真似は断じて出来ない。一度インフレに火が付いたら手が付けられなくなることは歴史が示している。また、クルーグマンの言うような資金供給を行なうとすると国債の日銀引受くらいしか手が無いが、それは財政規律の面から到底容認できない。そもそもクルーグマンの論議では資金供給→期待インフレ上昇のトランスミッション・メカニズムが不明確。
関連用語:インフレ・ターゲット論、量的金融緩和論
○調整インフレ論:その他の論点
◎実質均衡金利
- クルーグマン
- 名目金利−期待インフレ率 = 実質金利 > 実質均衡金利(=需給が均衡する実質金利)
名目金利≧0なので、期待インフレ率<0ならば実質金利>0
実質均衡金利<0なので、実質金利を実質均衡金利に持っていくには、期待インフレ率をプラスに持っていくしか無い。 - 反対論者
- 実質均衡金利がマイナスだという前提は、日本経済がマイナス成長を続けるという前提であり、人口の高齢化を考えてもあまりにも悲観的に過ぎる。実質均衡金利がプラスならば、マイナスの期待インフレ率(デフレ期待)をゼロに持って行くだけで良い。
- クルーグマン
- 実際にマイナス成長にならなくても、人々の成長率に対する期待値がマイナスならば私のモデルは成立する。
◎構造改革論vs調整インフレ論
- クルーグマン
- 構造改革は供給を増やす効果。今の日本の問題は需要不足。従って供給を増やせば却って不況が深刻化する恐れがある。
- 構造改革論者
- 効率化によって経済の健全化を図るしか無い。インフレで債務者を救えばモラルハザードの恐れ。
- クルーグマン
- 修身論的な緊縮志向は百害あって一理なし。
- バランスシート調整論者(小林慶一郎など)
- 毀損したバランスシ−トを改善すれば需要も供給も改善。
量的効果、質的効果、Knightの不確実性の減少*1 - クルーグマン
- バランスシート改善はミクロ経済的には必須。しかしマクロ経済的にはむしろ悪影響。
不良債権を持つ銀行は、むしろ政府が規制を始めた時に貸し渋り(credit crunch)を発生させる。その前はモラルハザード(moral hazard)で放埓な貸出を続ける。
関連用語:複数均衡(multiple equilibrium)
構造改革論の中には、今の日本は複数均衡の低位均衡に陥っているので、構造改革で高位均衡に移るべきという論もある。
あるいは財政政策が呼び水となって、高位均衡に移るという財政政策論もある。
その場合、低位均衡(図のa点)から高位均衡(図のb点)に移る際、所得以上に支出が増加する区間(c(Y)>1の区間)を経由しなくてはならない。
[参考文献(サイト)]
- 吉川洋+通商産業研究所編集委員会[編著][2000]「マクロ経済政策の課題と争点」、東洋経済新報社
- 作者: 吉川洋,通商産業研究所編集委員会
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2000/04
- メディア: 単行本
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- http://web.mit.edu/krugman/www
*1:Knightの不確実性・・・ 不確実性の中でも、確率分布さえ分からない不確実性に対応する場合、人々は最悪の事態に備えた行動を取る。