社会

日食と革命の記憶:中国についての実証結果

というNBER論文が上がっている。原題は「Eclipses and the Memory of Revolutions: Evidence from China」で、著者はMeng Miao(中国人民大)、Jacopo Ponticelli(ノースウエスタン大)、Yi Shao(北京大)。 以下はその要旨。 Why are certain communities…

パンデミックは社会的地位の(低い人ではなく)高い人の間で最初に拡大する:COVID-19とスペイン風邪の実証結果

という論文にタイラー・コーエンがリンクしている。原題は「Pandemics Initially Spread Among People of Higher (Not Lower) Social Status: Evidence From COVID-19 and the Spanish Flu」で、著者はJana B. Berkessel(マンハイム大)、Tobias Ebert(同…

植民地の罠

というイアン・ブルマのProject Syndicate論説(原題は「The Colonial Trap」)をMostly Economicsが紹介している。以下は引用部の孫引き。 On February 20, 1947, Clement Attlee, the socialist British prime minister, informed parliament that India w…

自由と安全のフロンティア

9/4エントリで取り上げたアレックス・タバロックの豪州批判にタイラー・コーエンも参戦し、「自由と安全のフロンティア(liberty vs. safety frontier)」ないし「自由と生命のフロンティア(liberty vs. lives frontier)」に豪州は乗っていないのではない…

炎上後:1921年のタルサ人種虐殺の経済的影響

ウォッチメンのTVシリーズのテーマともなったタルサ人種虐殺(cf. タルサ人種虐殺 - Wikipedia*1)の経済的影響を取り上げた表題のNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「After the Burning: The Economic Effects of the 1921 Tulsa Race Massacre…

ワクチンの確保と接種の遅れが招いたこと

アレックス・タバロックが9/3付けMRブログエントリで、豪州のロックダウンは行き過ぎ、という主旨のアトランティック記事を紹介している(タイラー・コーエンもその少し前に「Has Australia gone too far?(豪州はやり過ぎたのか?)」というコメントを添え…

労働市場での従順さと社会的移動性:社会経済的アプローチ

アセモグルの今月のNBER論文をもう一丁。以下は、表題のNBER論文(原題は「Obedience in the Labor Market and Social Mobility: A Socio-Economic Approach」、ungated版)の要旨。 This paper presents an analysis of what types of values, especially i…

(成功した)民主主義は自らの支持を育む

というNBER論文をアセモグルらが上げている。原題は「(Successful) Democracies Breed Their Own Support」で、著者はDaron Acemoglu(MIT)、Nicolás Ajzenman(サンパウロ・スクール・オブ・エコノミクス)、Cevat Giray Aksoy(欧州復興開発銀行)、Marti…

ワクチンは銀の弾丸ではない?・その2

以前ここで取り上げたように、日本のコロナ検査体制が他国と比較して十分かどうかが一つの議論の的になっているが、事情は米国でも同様らしく、MRブログのアレックス・タバロックが、独英加に比べると米国の検査体制は不十分だ、と嘆いている。ただし、日本…

デルタ・シュトラウシアニズムの誘惑

アストラゼネカの開発責任者だったアンドリュー・ポラード・オックスフォード大学教授が集団免疫の可能性を否定した、というニュースが話題になったが、シドニー・モーニング・ヘラルド紙が「AstraZeneca lead scientist says Delta makes mass testing poin…

ソビエトの1932-33年の大飢饉の政治経済的な原因

一昨年に映画も製作された*1ホロドモールを取り上げた表題のNBER論文が上がっている(cf. 昨年9月時点のWP、タイラー・コーエンの紹介、Mostly Economicsの紹介)。論文の原題は「The Political-Economic Causes of the Soviet Great Famine, 1932–33」で、…

非近代化:権力・文化の軌道と政治制度の動学

というNBER論文でアセモグル=ロビンソンが、経済発展が民主主義につながるという近代化論(modernization theory)が何を見誤っていたか、について論じている(ungated版)。原題は「Non-Modernization: Power-Culture Trajectories and the Dynamics of Po…

誤情報:戦略的共有、類友、内生的なエコーチェンバー

というNBER論文をアセモグルらが上げている(ungated版)。原題は「Misinformation: Strategic Sharing, Homophily, and Endogenous Echo Chambers」で、著者はDaron Acemoglu、Asuman Ozdaglar、James Siderius(いずれもMIT)。 以下はその要旨。 We prese…

ワクチンは銀の弾丸ではない?

少し前に、コロナ禍対策でのワクチン頼みの是非や、ワクチン接種が進む中で改めて検査を拡充する必要性の有無が議論になったが、欧米ではその点の議論はどのようになっているのだろう、と少しぐぐってみたところ、幾つか記事が引っ掛かったので簡単に紹介し…

第二次世界大戦からコロナ禍までの危機のイノベーション政策

というNBER論文が上がっている。原題は「Crisis Innovation Policy from World War II to COVID-19」で、著者はDaniel P. Gross(デューク大)、Bhaven N. Sampat(コロンビア大)。 以下はその要旨。 Innovation policy can be a crucial component of gove…

技術革新が道を踏み外す時:技術退歩とオピオイド禍

エドワード・グレイザーの5月のNBER論文をもう一丁。以下はDavid M. Cutler、Edward L. Glaeser(いずれもハーバード大)による表題の論文(原題は「When Innovation Goes Wrong: Technological Regress and the Opioid Epidemic」)の要旨。 The fivefold …

ジェントリフィケーションと近隣の変貌:Yelpによる実証結果

エドワード・グレイザーの昨年末のNBER論文をもう一丁。以下はEdward L. Glaeser、Michael Luca、Erica Moszkowski(いずれもハーバード大)による表題の論文(ungated版、原題は「Gentrification and Neighborhood Change: Evidence from Yelp」)の要旨。 …

文化、制度、社会的均衡:ある枠組み

というNBER論文(原題は「Culture, Institutions and Social Equilibria: A Framework」)をアセモグル=ロビンソンが上げている(ungated版)。以下はその要旨。 This paper proposes a new framework for studying the interplay between culture and inst…

致死的な差別:職場の安全にとって「消失女人」が持つ意味

というNBER論文が上がっている。原題は「Deadly Discrimination: Implications of "Missing Girls" for Workplace Safety」で、著者はZhibo Tan,(IMF)、Shang-Jin Wei(コロンビア大)、Xiaobo Zhang(北京大)。 以下はその要旨。 We examine an indirect…

危険な哲学者・再訪・補足

前回エントリで引用したシンガーインタビューで言及されていた「飢えと豊かさと道徳」の原論文「Famine, Affluence, and Morality」がネットで読めることに気づいたので、インタビューでシンガーが「これ以上施したら当該の人物に恩恵を与えるのと同じくらい…

危険な哲学者・再訪

5年近く前に本ブログでピーター・シンガーを取り上げた1999年のニューヨーカー記事を紹介したことがあったが、同誌の別の記者(Daniel A. Gross)がシンガーにインタビューし、最後に当時の記事の取り上げ方について訊いている(H/T タイラー・コーエン)。 …

銃撃事件が子供たちに残す後遺症

について調べた2本の論文が今月初めにNBERに同時に上がっている。一つはMostly Economicsやタイラー・コーエンも紹介しているウトヤ島事件を扱った「Surviving a Mass Shooting」で、著者はPrashant Bharadwaj(UCサンディエゴ)、Manudeep Bhuller(オスロ…

カズオ・イシグロのキャンセル・カルチャー批判

御田寺圭(白饅頭)氏の現代ビジネス記事が物議を醸している。同記事で白饅頭氏は、「リベラルは多様性を反映することを心掛けるべき」という趣旨のカズオ・イシグロの言を冒頭で引用した上で、リベラルにおける画一的な価値観への同調圧力を槍玉に挙げた。…

炭素の社会的費用、リスク、分配、市場の失敗:代替手法

というNBER論文をニコラス・スターン(Nicholas Stern、LSE)とジョセフ・スティグリッツ(Joseph E. Stiglitz、コロンビア大)という2人の大物経済学者が上げている。原題は「The Social Cost of Carbon, Risk, Distribution, Market Failures: An Alternat…

政治的分極化と予想された経済の帰結

Olivier Coibion(テキサス大オースティン校)、Yuriy Gorodnichenko(UCバークレー)、Michael Weber(シカゴ大)のNBER論文をもう一丁。以下は昨年の大統領選投票日前に出された表題のNBER論文(原題は「Political Polarization and Expected Economic Out…

政治的暴力、リスク回避、および非局地的な感染拡大:米議事堂暴動の実証研究

何かイベントがあるとそのCOVID-19感染への影響をNBER論文に上げている研究者のグループ*1が、今度は1/6の議事堂占拠事件を取り上げた。以下はDhaval M. Dave(ベントレー大)、Drew McNichols(UCサンディエゴ)、Joseph J. Sabia(サンディエゴ州立大)に…

Whataboutismが有用な時

近年、Whataboutismという用語が人口に膾炙したが、誤用ないし濫用による弊害も目立ってきたように思われる。そこで、ここでは敢えて、WikipediaのWhataboutismの説明と、redditの哲学論のエントリから、Whataboutism擁護論を引用してみる。 Whataboutism - …

メルケルはトランプのtwitterアカウント停止について何と言ったのか?

という点が最近ツイッター界隈で議論になったが、ドイツ政府のホームページに当該の報道官の会見のトランスクリプトが上がっていることに気づいたので、以下に該当箇所の原文、そのグーグル英訳、さらにその拙訳を掲げてみる。 (原文) Frage: Herr Seibert…

判事の定年制による米国の州最高裁のパフォーマンスの改善

というNBER論文が上がっている(7月時点のWP、H/T Mostly Economics)。原題は「Mandatory Retirement for Judges Improved Performance on U.S. State Supreme Courts」で、著者はElliott Ash(チューリッヒ工科大学)、W. Bentley MacLeod(コロンビア大)…

誰をパンデミック中に在宅勤務にすべきか? 賃金と感染のトレードオフ

というNBER論文が上がっている。原題は「Who Should Work from Home during a Pandemic? The Wage-Infection Trade-off」で、著者はSangmin Aum(明知大学校)、Sang Yoon (Tim) Lee(ロンドン大学クイーン・メアリー校)、Yongseok Shin(セントルイス・ワ…