2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

デロング、格差を語る――奴隷制廃止からトランプ現象まで

デロングが「A Brief History of (In)equality」と題したProject Syndicate論説で、アイケングリーンが最近のリスボン講演で挙げた過去250年間の格差に関する6つの主要な動きを紹介している。 ちなみにデロングは、アイケングリーンと自分との共通点として、…

金利平価と購買力平価と新フィッシャー派

前回エントリで紹介した論文では、従来の経済学と新フィッシャー派の齟齬について、短期=従来経済学、長期=新フィッシャー派、という折衷案を提示していたが、それと似てなくもない考え方をスコット・サムナーがWCIブログエントリ*1のコメント欄で展開して…

新フィッシャー派とマネタリズムの齟齬の解決?

ノアピニオン氏がブルームバーグ論説で、過去数年間で最も興味深い論文として、ハーバード*1のXavier Gabaixの「A Behavioral New Keynesian Model」という論文を紹介している(H/T Economist's View)。 以下は同論文の要旨。 This paper presents a framew…

仕事に励めば体も壊すさ

「No Pain, No Gain: The Effects of Exports on Effort, Injury, and Illness」というNBER論文が上がっている(ungated版)。著者はDavid Hummels(パデュー大)、Jakob Munch(コペンハーゲン大)、Chong Xiang(パデュー大)。 以下はその要旨。 Increase…

RBC手法とマクロ経済理論の発展

プレスコットのNBER論文をもう一丁。以下は表題の論文(原題は「RBC Methodology and the Development of Aggregate Economic Theory」、ミネアポリス連銀のスタッフレポート版)の要旨。 This essay reviews the development of neoclassical growth theory…

部分準備銀行制度の無い世界の金融政策

プレスコットが「Monetary Policy with 100 Percent Reserve Banking: An Exploration」というNBER論文を上げている。共著者はプレスコットと同じアリゾナ州立大のRyan Wessel。 以下はその要旨。 We explore monetary policy in a world without fractional…

FRBはリーマンを救えた?

「The Fed and Lehman Brothers: Introduction and Summary」というNBER論文をローレンス・ボールが上げている。以下はその要旨。 Why did the Federal Reserve let Lehman Brothers fail? Fed officials say they lacked the legal authority to rescue the…

ある金融財政協調策の提案

Tony Yatesが自分の理想とする財政金融協調策について以下のように述べている(H/T Economist's View)。 People may differ on the effectiveness and desirability of unconventional monetary policy. But most of those in the sensible camp would agre…

フィッシャー式逆さ眼鏡派と質的緩和

今年初め、コチャラコタによる新フィッシャー派(フィッシャー式逆さ眼鏡派)への批判と、それに対するStephen Williamsonの反論を紹介したが(ここ、ここ)、同様のやり取りがまたあった。 今回もコチャラコタは無限期間モデルと有限期間モデルの違いに焦点…

実力主義の陥穽

ジャスティン・フォックスがブルームバーグ論説で、メリトクラシーという言葉の語源になった本*1について書いている。 The enduring popularity of the related term “meritocracy” is a bit harder to figure. British sociologist and Labour politician M…

地球上を歩いている最も危険な人物

レーガン政権で行政管理予算局長を務めたデビッド・ストックマンが、バーナンキのことをそう呼んでいる(H/T Mostly Economics)。 Ben Bernanke is one of the most dangerous men walking the planet. In this age of central bank domination of economic…

ユニバーサル・ベーシック・インカム:マンキューの指摘

マンキューが、平均所得が5万ドルだが所得格差が大きい経済における以下の2つの社会保障政策を比較している。 皆に1万ドルを移転。財源は所得への20%のフラット・タックス。 資力調査を伴う1万ドルの移転。所得の無い人には満額が支給され、所得が増加するに…

世界格差の数学としての根岸厚生加重

デロングが「Must Read」として、7年前の「Negishi Welfare Weights: The Mathematics of Global Inequality」という論文を紹介している。論文の著者は、当時ストックホルム環境研究所(Stockholm Environment Institute)に在籍していたElizabeth A. Stanto…

ロドリックの見た母国のクーデター

今回のトルコのクーデターについて、ダニ・ロドリックが旅先のスペインからvox.comのエズラ・クラインの質問に答えている。ロドリックは、このクーデターは非常に訳が分からず、計画も杜撰だった、と述べた上で、以下の点を指摘している。 Second, it is not…

ヘリマネ政策を弄ぶ日本

Gavyn Daviesが「Japan flirts with helicopter money」という論説を書いている。 以下はそこからの引用。 There are many ways of defining helicopter money, but the essential feature is that it involves an increase in the budget deficit which is …

サマーズ「CBOのインフラ投資レポートは誤審」

サマーズが、議会予算局(CBO)の直近のインフラレポートはミスジャッジだと猛抗議している。 彼は自分の見解とCBOレポートの見方を以下のように対比させている。 My views come in part from a simple calculation. Imagine an infrastructure project that…

資本流入は拡張的か収縮的か? 理論、政策的含意、および実証結果

ブランシャールのNBER論文をもう一丁。以下は、4日エントリで紹介したコーエンの議論でリンクされていた表題のNBER論文の要旨(原題は「Are Capital Inflows Expansionary or Contractionary? Theory, Policy Implications, and Some Evidence」;IMFのWP;…

通貨戦争、協調、ならびに資本規制

というNBER論文をブランシャールが書いている(ピーターソン国際経済研究所のungated版はこちら)。原題は「Currency Wars, Coordination, and Capital Controls」。 以下はその要旨。 The strong monetary policy actions undertaken by advanced economies…

クルーグマンの賭け?

ブレグジットは短期的な景気後退をもたらす、という一般に流布している説に疑問を投げ掛けたクルーグマンが、7/12エントリで改めて自分の考えを説明した。それに対しデロングが、新古典派的な価格伸縮的で債務がゼロの世界ならば名目金利がゼロ金利下限にあ…

一方、日本では…

家計消費が低下し続けている、というブログエントリをBrad Setserが書いている(原題は「Meanwhile, in Japan, Household Consumption Continues to Fall」、H/T Economist's View)。 (ここでmeanwhileから始まっているのは、ブレグジットやイタリアの銀行…

財政金融の新時代

「A Remarkable Financial Moment」と題したブログエントリでサマーズが、低下を続ける各国の長期金利を前に市場は長期停滞のリスクを認識したようだが、政策当局者の認識が遅れている、と書いている。(H/T Economist's View。cf. FTとWaPoへの転載)。 ...…

経済学者と彼らの権力との関係について知っておくべきこと

これまで紹介してきたStormのINETインタビューでは、冒頭で主流派経済学を批判している。具体的には、「What do we need to know about economists and their relationship to power?」というインタビュアーの質問に対し、以下のように答えている。 In a bri…

ユーロ圏危機とイェイツ

これまで紹介してきたStormのINETインタビューでは、最後に、前回エントリで紹介したドイツの協同資本主義の成功から今後の欧州の進むべき道を以下のようにまとめている。 It’s time to get rid of the myth that market competition is the overwhelming so…

ドイツ経済は米国型になったのか?

前回エントリで紹介したStormのドイツ経済論の続き。 LP: Many argue that the old German economic model of “cooperative capitalism” has been happily replaced by something more like the American model, where companies focus on short-term profit…

ドイツが競争力を得た理由は?

昨日紹介したINETインタビュー記事の中でStormは、ドイツの競争力が2000年代初めの改革によってもたらされた、という見方を否定している。 Germany was once called “the sick man of Europe” because its economy was stagnant and lots of people were une…

ハンガーゲームに投げ込まれた欧州

オランダのデルフト工科大学のServaas StormとC.W.M. Naastepadが、「Europe’s Hunger Games: Income Distribution, Cost Competitiveness and Crisis」という論文を書いている(Mostly Economics経由のINETのStormインタビュー記事経由)。 以下はその要旨…

我々の将来を決める思想家は誰?

というテーマでデロングがProject Syndicateに書いている(H/T Mostly Economics)。 以下はその冒頭。 Several years ago, it occurred to me that social scientists today are all standing on the shoulders of giants like Niccolo Machiavelli, John L…

コーエン「ブレグジットはやはり短期的にも投資を減退させる」

昨日紹介したクルーグマンの議論にタイラー・コーエンが反論している。彼はまず、以下の点を指摘している。 この話は単純なことなのに、クルーグマンはいつもと逆にむしろ話をややこしくしている。ブレグジットは、平均が同じで信頼区間が広がる現象という意…

ブレグジットは短期的な景気後退をもたらすのか?

昨日紹介したMatt O'Brienや以前紹介したサマーズが書いているように、ブレグジットは英国に景気後退をもたらす、という見方は多い。それに対しクルーグマンが、6/30エントリで、EU市場へのアクセスが低下することによって貿易が減少し、長期的に英国の成長…

歴史の終わりの終わり

Mostly Economicsが引用した2つの論説記事が、まったく別の表現で共にブレグジットをナショナリズムと結び付けているのが興味深いので以下に孫引きしてみる。 一つはMatt O'BrienのWaPo記事。 The world has enjoyed an unprecedented run of peace, prosper…