2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

GDPはなぜ厚生の指標として失敗しているのか

ダボス会議でスティグリッツやラガルドがGDPの欠点を指摘したことを受け、Mark Thomaが表題のCBS Moneywatchの論説で、GDPの問題点やその代替指標候補についてまとめた(原題は「Why GDP fails as a measure of well-being」)。それをサンドイッチマンがEco…

新フィッシャー派の見解とマクロ学習アプローチ

15日エントリでは新フィッシャー派(フィッシャー式逆さ眼鏡派)に対するコチャラコタの反論を紹介したが、その反論を取り上げた1/13付けEconomist's Viewエントリでは、表題の12/30付けEconomist's Viewエントリ(原題は「The Neo-Fisherian View and the M…

FRBが直面する5つのシナリオ

についてTim Duyがブルームバーグ論説に書いている(H/T Economist's View)。 Duyは記事前半において各連銀総裁の見解を紹介した上で、以下の5つのシナリオを提示している。 経済は不況に陥り、12月の利上げは、中銀がゼロ金利からの脱却を試みて失敗した過…

予防的金融引き締め措置の費用便益分析

というNBER論文をスヴェンソンが書いている。原題は「Cost-Benefit Analysis of Leaning Against the Wind: Are Costs Larger Also with Less Effective Macroprudential Policy?」(IMF論文版、関連VoxEU記事、関連ブログエントリ)。 以下はその要旨。 “Le…

コチャラコタ変心の理由を語る

自サイトへの1/25付けの投稿でコチャラコタが、ミネアポリス連銀総裁時代に金融政策についての考え方を変えた背景を説明している(H/T Economist's View)。 以下はその冒頭部。 I’m often asked about why I changed my mind about the appropriate stance …

原油価格の低下は景気後退をもたらし得るのか?

24日エントリで原油価格が実体経済の悪化につながるかどうかについてのクルーグマンとブランシャールの対照的な見方を紹介したが、ジェームズ・ハミルトンが表題のブログエントリで、その二分法で言えばクルーグマン側の見解を示している(原題は「Can lower…

愛と哀しみの果て

「Out of Africa: Human Capital Consequences of In Utero Conditions」というNBER論文が上がっている(ungated版)。著者はVictor Lavy(ウォーリック大)、Analia Schlosser(テルアビブ大)、Adi Shany(ヘブライ大)。 以下はその要旨。 This paper inv…

非線形効果か、ハーディング現象か?

クルーグマンとブランシャールが原油価格低下の影響について対照的な見方を示している。 1/16ブログエントリでクルーグマンは、原油価格低下は経済にとって良いことだ、という一般的な見方に12/4の段階で懐疑論を示していたことに触れつつ、現状に鑑みるとそ…

フィッシャー式逆さ眼鏡派と有限期間

フィッシャー式逆さ眼鏡派(新フィッシャー派)の無限期間モデルを問題視した15日エントリで紹介したコチャラコタの論考に対し、Stephen Williamsonが、いや、有限期間で考えることこそおかしい、と反論している。 Williamsonはまず、金融経済で有限期間を考…

経済成長と収束、特に中国に当てはめた場合

バローのNBER論文をもう一つ。今度は単著で、資産価格理論ネタではなく中国ネタ。 以下は表題の論文(原題は「Economic Growth and Convergence, Applied Especially to China」)の要旨。 From the perspective of conditional convergence, China’s GDP gr…

稀な出来事と長期リスク

バローのNBER論文をもう一丁。以下はRobert J. Barro(ハーバード大)、Tao Jin(清華大)の論文「Rare Events and Long-Run Risks」(ungated版)の要旨。 Rare events (RE) and long-run risks (LRR) are complementary elements for understanding asset-…

惨事リスクを取り込んだオプション価格式

というNBER論文をロバート・バローらが書いている。原題は「Options-Pricing Formula with Disaster Risk」で、著者はRobert J. Barro(ハーバード大)、Gordon Y. Liao(ハーバードビジネススクール)。 以下はその要旨。 A new options-pricing formula ap…

米国では国民皆保険制度は実現不可能なのか?

ポール・クルーグマンが、個人的には国民皆保険制度を支持するものの、バーニー・サンダースの提唱する国民皆保険制度は非現実的であり、オバマケアを続けることこそが現実的だ、という論陣を張っている(18日付けブログ記事、およびそこでリンクされたNYT論…

宇沢に反する均斉成長

というNBER論文が上がっている。原題は「Balanced Growth Despite Uzawa」で、著者はGene M. Grossman(プリンストン大)、Elhanan Helpman(ハーバード大)、Ezra Oberfield(プリンストン大)、Thomas Sampson(LSE)。 以下はungated版の結論部。 Over at…

経済学者は如何に理論からデータにシフトしたか

1/11エントリでは、今年の全米経済学会に出席したジャスティン・フォックスがそこで見い出した傾向として、格差問題に関する経済学者の取り組みの変化について書いたブルームバーグ論説を紹介した。表題のブルームバーグ論説(原題は「How Economics Went Fr…

なぜエコノミストの予測はばらつくのか?

NY連銀ブログでエコノミスト予測の不一致についての分析記事が上がっている。元となった論文はこちら。論文の著者はPhilippe Andrade、Richard K. Crump、Stefano Eusepi、Emanuel Moench(Andradeのみフランス銀行、他はNY連銀)で、ブログ記事を書いたのは…

コチャラコタとフィッシャー式逆さ眼鏡派

コチャラコタが、インフレ率は名目金利で決まるという新フィッシャー派(フィッシャー式逆さ眼鏡派)の主張が成立するのは無限期間モデルにおいてのみであり、有限期間モデルでは成立しない、ということを簡単なニューケインジアンモデルで示している(Econo…

純粋に実質ベースのモデルの脆弱性

というコチャラコタのNBER論文が上がっている(原題は「Fragility of Purely Real Macroeconomic Models」;ungated版)。 以下はその要旨。 Over the past thirty years, a great deal of business cycle research has been based on purely real models th…

死の抱擁:政府債務破綻とバランスシート破綻のループ

というNBER論文をジャン・ティロールらが書いている(原題は「Deadly Embrace: Sovereign and Financial Balance Sheets Doom Loops」;昨年11月5日のECBコンファレンスでのungated版、スライド版)。著者はEmmanuel Farhi(ハーバード大)、Jean Tirole(ト…

BISによるインフレの再定義(またもや)

前プリンストン大教授で現在はBISの経済顧問兼調査研究責任者(Economic Adviser and Head of Research)を務めるヒュンソンシン(Hyun Song Shin)のフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングのインタビュー記事の英訳がBISのサイトに掲載されている…

なぜ経済学者が格差問題に注目するようになるのにこれほど長くかかったのか

ジャスティン・フォックスが表題のブルームバーグ論説を書いている(原題は「Why Economists Took So Long to Focus on Inequality」;H/T クルーグマン)。 以下はその一節。 The answer may lie in agnotology, the study of the cultural suppression of …

3種類の経済学的無知

リバタリアン経済学者のSteven Horwitzセント・ローレンス大学教授が、表題のFEE記事を書いている(原題は「3 Kinds of Economic Ignorance」;H/T Mostly Economics)。 When it comes to economic ignorance, libertarians are quick to repeat Murray Rot…

米国債務上限史:サージェントインタビュー

12/16エントリで紹介した研究について、IMFが著者の一人であるサージェントにインタビューしている(H/T Mostly Economics)。 IMF Survey: Professor Sargent, could you please explain the role debt limits have played in the economic history of the …

クレメンスとトッティと最低賃金

といってもメジャーリーグやセリエAの選手の話ではなく、論文の著者の名前。 まず、クレメンスの論文から(H/T マンキュー、Economist's View、タイラー・コーエン)。以下はJeffrey Clemens(UCサンディエゴ)の論文「The Minimum Wage and the Great Reces…

ある論文の変遷

昨日エントリで、Giancarlo Corsetti(ケンブリッジ大)とLuca Dedola(ECB)の論文「The “Mystery of the Printing Press”/Monetary Policy and Self-fulfilling Debt Crises」の論調が2013年4月版と2014年8月版で論調が変わっている、と書いたが、それぞ…

サマーズ=クルーグマン=デロング論争の余燼

昨日まで紹介してきたサマーズ=クルーグマン=デロング論争は取りあえず一段落したようだが、以下ではそれに関する当事者以外の反応をまとめておく。 ●[http //www.bradford-delong.com/2016/01/comment-of-the-day-robert-waldmann-moar-musings-on-whethe…

モデルの2つの貌

昨日まで紹介してきたサマーズ、クルーグマン、デロングの3者のやり取りの中で、デロングがモデルに関して以下のような考察を示している。 Are models properly idea-generating machines, in which you start from what you think is the case and use the …

クルーグマン「政策はモデルによって律せられるべし」

一昨日および昨日のエントリで紹介したクルーグマンとデロングのやり取りでは、FRBが既存のモデルに囚われていたがために利上げに踏み切った、というサマーズの見解が一つのテーマになっていた。これについてデロングは、いや、FRBがクルーグマン(1999)の…

なぜクルーグマンは考えを変えたのか?

昨日エントリで12/22サマーズ論説を巡るクルーグマンとデロングのやり取りに触れたが、その中でデロングが以下のようなことを書いている。 Since 1999, Paul has changed his mind. He has become an aggressive advocate of expansionary fiscal policy as …

尊重すべき急進主義

一昨日、昨日とTim Taylorへのクルーグマンの批判とTaylorの反論を紹介した。クルーグマンからの再反論は今のところ無いが、小生なりに想定される再反論を組み立ててみると、概ね以下のようになる。 サマーズが復活させた長期停滞論は、マイナスの自然利子率…