2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧

ウィンターズ・ボーンの経済学

論文の要旨を読んで何となく連想した映画をタイトルに使ってみたが、「Human Capital Quality and Aggregate Income Differences: Development Accounting for U.S. States」というNBER論文が上がっている。著者はEric A. Hanushek(スタンフォード大フーバ…

なぜもっと働くの?

「Why Work More? The Impact of Taxes, and Culture of Leisure on Labor Supply in Europe」というNBER論文が上がっている。著者はルイジアナ州立大学のNaci H. MocanとLuiza Pogorelova。 以下はその要旨。 We use micro data from the European Social S…

暗隅に繋がれた鬼を避く

昨日エントリの冒頭で触れたIMFブログ記事は「U.S. Monetary Policy: Avoiding Dark Corners」と題されており、その元となっている論文は「Avoiding Dark Corners : A Robust Monetary Policy」と題されている。ここで「dark corner」はブランシャールの昨年…

サマーズ「慌てて利上げして経済を台無しにした日本の轍を踏むべきではない」

少し前にIMFがFRBに利上げに慎重になることを呼び掛けたが、その裏付けとなる研究を紹介した記事がIMFブログに上がっている。同記事では、サマーズの「whites of inflation’s eyes are visible(インフレの白目が明確になる)」まで利上げを待つべき、という…

共変動再訪

「Comovement Revisited」というNBER論文が上がっている(ungated版)。著者はHonghui Chen(セントラルフロリダ大学)、Vijay Singal(バージニア工科大学)、Robert F. Whitelaw(NYU)。 以下はその要旨。 Recent evidence of excessive comovement among…

自殺と人生への満足度はあまり関係無い

という主旨のNBER論文「Suicide, Age, and Wellbeing: an Empirical Investigation」をプリンストン大のAnne CaseとAngus Deatonが書いている。 以下はその要旨。 Suicide rates, life evaluation, and measures of affect are all plausible measures of th…

量的緩和と緩和縮小の不確実性:ツイッターからの実証結果

以前のエントリで、量的緩和のアナウンスメントという金融政策当局者が発する定量化の難しい情報をVARモデルに取り込んだ研究を紹介したユストゥス・リービッヒ大学ギーセンのAnnette MeinuschとPeter Tillmannが、今度はツイートという市場参加者が発する定…

良性の流動性の罠の解明:日本の場合

以前のエントリで土地と動学的効率性に関する論文を紹介したライプニッツ大学のStefan Homburgが、表題の論文(原題は「Understanding Benign Liquidity Traps: The Case of Japan」)を書いている。 以下はその要旨。 Japan has been in a benign liquidity…

予想と投資

以前、デューク大のCFO調査を用いたFRB論文を紹介したことがあったが、同じ調査を用いてアンドレイ・シュライファーらが表題のNBER論文を書いている(ungated版)。原題は「Expectations and Investment」で、著者はNicola Gennaioli(ボッコーニ大)、Yuera…

体化されたアイディアと経済成長

前回エントリでは、David Andolfattoがポール・ローマーへの反論エントリを上げたことを紹介するとともに、彼のエントリの内容は実のところ今月初めのDietz Vollrathによるボルドリン=レヴァイン(BL)の解説で先取りされていた、と説明した。そのVollrath…

競争的イノベーション

ここで紹介したDavid Andolfattoに対するポール・ローマーの批判に対し、Andolfattoが表題のエントリ(原題は「Competitive Innovation」)で反論している。ただ、そこで彼が反例として提示したモデルは、Dietz Vollrathが6/5エントリで解説したボルドリン=…

インフレ目標再考

元ブンデスバンク総裁のアクセル・ヴェーバーが表題のProject Syndicate論説を書いている(原題は「Rethinking Inflation Targeting」、H/T Mostly Economics)。そこで彼は、CPIだけが金融政策の対象となったとして現在のインフレ目標のあり方を批判し、以…

時間的不整合と貯蓄

「Time-Inconsistency and Saving: Experimental Evidence from Low-Income Tax Filers」というNBER論文が上がっている。著者はDamon Jones(シカゴ大)、Aprajit Mahajan(UCバークレー)。 以下はその要旨。 We conduct a field experiment designed to te…

輸出入銀行なんかいらない

マンキューがユタ州で開かれたコンファレンス*1に講演者として出席したところ、別の講演者――学者ではなく政治家だというが、マンキューは敢えて名前を伏せている――が合衆国輸出入銀行の再認可を訴えたという。Wikipediaによると、同行は議会によって定期的に…

ゴードン・ゲッコー効果

MITのアンドリュー・ローが「The Gordon Gekko Effect: The Role of Culture in the Financial Industry」というNBER論文を書いている(ungated版)。 以下はその要旨。 Culture is a potent force in shaping individual and group behavior, yet it has re…

ヘッジファンドのアクティビズムの長期的帰結

というNBER論文が上がっている(SSRNでungated版が読める)。原題は「The Long-Term Effects of Hedge Fund Activism」で、著者はLucian A. Bebchuk(ハーバード大)、Alon Brav(デューク大)、Wei Jiang(コロンビア大)。 以下はその要旨。 We test the e…

成長理論の前提のトリレンマ

昨日紹介したポール・ローマーの主張を、Dietz Vollrathが成長理論の前提のトリレンマという形で整理し、ローマーが激賞している。 Vollrathが提示した3つの前提は以下の通り。 生産は競合投入財の規模について収穫一定である 非競合投入財は生産の幾分かを…

永久機関とオイラーの定理

デロングがポール・ローマーの数学もどき批判をProject Syndicate論説で取り上げたところ、David Andolfattoが、そのデロングの解釈を皮肉たっぷりに批判するエントリを書いた。その中で彼は以下のように述べている。 For Romer, the issue has to do with (…

中央銀行のバランスシートはインフレ期待に影響するか?

という点についてオランダ銀行の2人の研究者が実証分析を行っている。論文のタイトルは「Central bank balance sheet policies and inflation expectations」で、著者はJan Willem van den EndとChristiaan Pattipeilohy。 以下はその要旨。 We analyse the …

なぜドイツではケインズ経済学が異端視されているのか?

10日エントリではサイモン・レン−ルイス経由でドイツのハイパーインフレへの記憶に関する一つの見方を取り上げたが、そのエントリでレン−ルイスは、なぜドイツではケインズ経済学が異端となっているのか、と問うている。マクロ経済学の教科書は他国と同様に…

ドイツの模造記憶

英国の経済史学会(Economic History Society)のサイトで、「GERMANY’S OBSESSION WITH INFLATION: How post-war central bankers manipulated national memories to assert their power(ドイツのインフレ強迫観念:戦後の中央銀行家が権限を行使するため…

第一四半期の残存季節性の神話

以前、米国の第一四半期の成長率が残存季節性によって低くなる、というSF連銀の報告を紹介したが、NY連銀ブログでそれに対する反論が出ている。Jan GroenとPatrick Russoが書いた表題ブログ記事(原題は「The Myth of First-Quarter Residual Seasonality」…

分散がマイナスになる時

数式上は全く同じ結果になるはずが、計算機誤差のために全く違う結果になる例として、分散の計算をDave Gilesが示している。その内容は概ね以下の通り。 データの平均を X* = [Σ(Xi)] / n とした場合、分散の式として最初に習うのは、以下の(1)式であろう。 …

3次元エッジワースボックスと不況

Nick Roweが、通常の2次元ではなく3次元のエッジワースボックスのモデルを用いて、交換の媒介たる貨幣への需要超過による不況を説明している。 彼が提示しているモデルは、A、B、Cの3財モデルで、初期条件では、それぞれの財を300単位賦与された(しかし他の…

後方帰納法とインフレ予想

クルーグマンとデロングの意見の不一致が珍しく露わになり、エコノブロゴスフィアで話題を呼んでいる。両者の食い違いは、FRBの金融緩和によるインフレへの懸念を表明したフェルドシュタインをどう評価するか、という点に関するもので、クルーグマンが(Tony…

米国の所得格差は企業間格差なのか?

米国における所得格差は、企業の中のCEOをはじめとする高所得者と一般労働者との間の格差ではなく、社員が高収入を得る企業とそうでない企業との企業間格差によるところが大きい、という論文「Firming up Inequality」(NBER版、ungated版)が話題を集めてい…

災厄のレシピとしての中銀

ジョンズ・ホプキンス大学のSteve Hankeが、新興国の中銀の金融政策は概ね失敗するのだから、ドル化するのが最善の策、とケイトー研究所のブログに書いている(H/T Mostly Economics)。その成功例として挙げられているのが、パナマである。 Most central ba…

教育の神話

ベネズエラの企画大臣や米州開発銀行の主任エコノミストを務めたハーバード大学国際開発センター所長のリカルド・ハウスマン(Ricardo Hausmann)が、ハーバードの同僚のLant Pritchettの論文も援用しつつ、成長戦略を教育に頼るのは間違いだ、とProject Syn…

最も長く中所得国の罠に引っ掛かっていた国は?

というお題でアンドレ・ベラスコ(Andrés Velasco)がProject Syndicate論説を書いている*1(H/T Mostly Economics)。 以下はそこからの引用。 ...Argentina became an upper-middle-income country all the way back in 1970, and then spent 40 years stu…

GDPplusがGDPの単純平均より優れている3つの理由

18日エントリでは、米国の成長率が第一四半期に低くなるという問題についてのSF連銀の報告を紹介したが、Stephen Williamsonもこの問題を概観し、フィラデルフィア連銀のGDPplusを改善手法の一例として取り上げている。GDPplusについては、1年ほど前に、やは…