2011-07-01から1ヶ月間の記事一覧

財政黒字ギャンブル?

昨日、7/24エントリにコメントを頂き、いろいろとやり取りをさせて頂いたが、その中に、同エントリでの実証結果と7/16エントリのシミュレーション結果をどう整合させるのか、という質問があった。それに対しては、7/16のシミュレーションは取りあえず元論文…

債務の対GDP比率は無意味?

ロバート・シラーが表題の趣旨のProject Syndicateコラムを書き、Mostly Economics、Economist's View、FTブログ(クライブ・クルック[Clive Crook])が取り上げている。 以下はその前半部の拙訳。 経済学者は、それを突破したら問題が起きる閾値について…

反ケインズ主義とは何を意味するのか?

というブログエントリを7/19にジョン・テイラーが書いている。 彼は4/19エコノミスト記事で反ケインズ的と呼ばれたが、当時その記事に対し、代表的なニューケインジアンであるテイラーを反ケインズというのはおかしいではないか、とDavid Altigやクルーグマ…

政府発表と異なるインフレ率を推計すると…

アルゼンチンでは罰せられる、というWSJ記事をタイラー・コーエンがMarginal Revolutionで引用している(Mostly Economics経由)。以下はその引用部の拙訳。 アルゼンチン政府は独立系エコノミストへの弾圧をエスカレートさせ、ある経済コンサルティング会社…

アメリカ独立戦争の経済的影響

についてPeter H. LindertとJeffrey G. Williamsonという2人の研究者が論文を書き、その内容をvoxeuで紹介している(Mostly Economics経由)。 voxeuでは、1840年価格による個人所得という形で実際の値が示されている。それをグラフ化してみると以下のように…

オバマは民主党のニクソンか?

とブルース・バートレット(Bruce Bartlett)が書いている(Economist's View経由)。その心は、所属する党の強硬派とは反対の政策を推進している、という点にある。 ニクソンが大統領に就任した時、共和党の保守派は、彼が前任のジョンソン民主党政権の「偉…

イタリア対日本とリビジョニスト対円高シンドローム

10日ほど前にクルーグマンが「なぜイタリアと日本の国債の利回りは違うのか?」という問いをブログで投げ掛け、幾人かのブロガーがそれに応えた。 例えばEconospeakのPeter Dormanとレベッカ・ワイルダー*1は、経常収支が赤字か黒字かという違いを挙げている…

プライマリーバランスの改善はGDPを押し上げるか?

7/16エントリを上げた後、そのエントリでの参照論文の著者である小黒一正氏とツイッター上で意見交換する機会があり、その際、氏の未公表の論文で、プライマリーバランス(PB)の改善が金利と経済成長率の差を縮める可能性を見い出されたことをご教示頂いた…

フィリップス対日本軍

マクロ経済学を多少とも齧った人ならばフィリップス曲線のことは知っているだろうが、そのフィリップス本人について知っている人はそれほど多くないだろう。Economicaに掲載されたフィリップスの評伝では、彼が我が国の敵として戦った時のエピソードが記され…

プラチナが米国を救う?

1996年に、米政府が任意の金額のプラチナ硬貨を造幣できる法案が制定されたという。これを利用して、政府債務の上限を回避できるのでは、というアイディアが米ブロゴスフィアを駆け巡っている(Econospeak(バークレー・ロッサー)、サムナー、フェリックス…

経済危機によって失われた消費

がサンフランシスコ連銀のレポートで試算されている(Mostly Economics経由)。 以下はその試算の元となった図。レポートによると、この図の一人当たり消費の危機前のトレンド線と実際の経路との差は、2007年12月の大不況開始(=前回の景気の山)以来2011年…

債務上限に関する5つの神話

ブルース・バートレット(Bruce Bartlett)がWaPoのFive Mythsシリーズの7/7記事で表題の件について書いている。 以下はその要約。 債務上限規制は財政支出と財政赤字をコントロールする効率的な手法である まったく違う。歳出入に関する重要な決定は議会の…

産業政策を再考する

というハーバード大学経済学部教授のPhillip Aghionらによる小論をMostly Economicsが紹介している(原題は「Rethinking industrial policy」)。 その中で、Mostly EconomicsのAmol Agrawalが「Tariff protection leads to benefits in some cases. Did I h…

スムート・ホーリー法は大恐慌の原因か?

ダグラス・アーウィン(Douglas Irwin)ダートマス大学経済学部教授の下記の本をMostly Economicsが取り上げている。Peddling Protectionism: Smoot-Hawley and the Great Depression作者: Douglas A. Irwin出版社/メーカー: Princeton Univ Pr発売日: 2011/…

右上がりのIS曲線?

IS曲線と言えば、下図(以前のエントリの図を再掲)のように右下がりであるのが通常だが、ジョン・コクランとNick Roweが右上がりのIS曲線を提唱している。 ただし正確には、コクランについてはコクラン自身が右上がりのIS曲線を明示的に提唱したわけではな…

何が財政ギャンブルか?

デロングが、以前ここで紹介した計算を繰り返したエントリをブログの最上段に掲げ、緊縮策が却って財政赤字を拡大させる危険性について強く警告している。 そこでふと、今週目にした5年ほど前の小黒一正氏の論文*1(H/T wrong, rogue and booklog)に、この…

宿命としての会計

スティーブ・ワルドマンが「Accounting is destiny」と題したエントリで、銀行に関して興味深い考察を行っている。 You cannot understand banking at all unless you understand that banks must be valued as portfolios of options. You can value some b…

米国の政府債務は歳入が低いせい、それとも歳出が高いせい?

と題されたレポートがセントルイス連銀から出されている(原題は「The Federal Debt:Too Little Revenue or Too Much Spending?」;Mostly Economics経由)。 そこでは以下の図が示されている。この図から分かるように、1975-2007年の財政赤字/債務増加は、…

閾値型フィリップス曲線

なるものがNY連銀のレポートで提唱されている(Economist's View経由のWSJブログ経由)。 趣旨は単純で、通常の連続型のフィリップス曲線の代わりに、以下のように閾値を境に傾きが変わるフィリップス曲線を推計しよう、というもの。 式で言えば、通常用いら…

所得格差と社会の病理

昨日のエントリでは格差問題、一昨日のエントリでは社会の構成員同士の信頼性の問題を取り上げたが、以下のグラフでは両者の間の相関が示されている。これによると、格差が小さいほど社会の中のお互いへの信頼度が高まるという。 このグラフは、ダニエル・リ…

技術進歩で格差は縮小するか?

ケネス・ロゴフが、技術進歩で熟練労働者と非熟練労働者の格差が拡大するという通説に異を唱え、そうした技術進歩によっていずれは熟練労働者の技術もコモディティ化し、むしろ格差の縮小をもたらす、という見解をProject Syndicateで示している(Economist'…

イスラム神学校は過激派の温床か?

という微妙なテーマの論文をNY連銀が出している(Mostly Economics経由)。以下にMostly Economicsの要約に沿ってその内容を紹介してみると…。 パキスタンの3種類の学校から1521人の男子学生を募り、実験を行った。3種類の学校とは イスラム神学校(4校) 学…

ディーン・ベーカーがロン・ポールに賛同する日

米国の政府債務上限問題の解決策として、ロン・ポール下院議員が、FRBの持っている国債1.6兆ドルを無しにしてしまえ、と提言した。それをディーン・ベーカーが、驚くほどまともなアイディアとして支持したことから、ネット上でこの件に関する議論が一気に広…

米国の移転支出は過大か?

かねてから今回の経済危機に対する米国の景気対策(ARRA)の効果に懐疑的だったジョン・テイラーが、その主張を論文にまとめ、6/30ブログエントリで紹介した。これに対しノアピニオン氏が、その論文は財政支出の規模が不十分だったというケインジアンの主張…

財政赤字を削減するための増税はGDPに悪影響を与えない?

Econbrowserの6/30エントリでメンジー・チンが、Ricardoというコメンターがローマー夫妻の2010年のAER論文を誤読していると非難している。具体的には、6/28エントリのコメント欄でRicardoが、ローマーは税率を上げれば税収が減り税率を下げれば税収と成長率…

中国は米国と同じくらいの富裕度を達成できるか?

という問いをダラス連銀のレポートが投げ掛けている(原題は「Will China Ever Become as Rich as the U.S.?」;Mostly Economics経由)*1。 その問いに答えるため、同レポートではこれまでの米国と他の国々との経済パフォーマンスを比較している。具体的に…

この支出からの卒業

Jeffrey Frankelらが、「景気循環的な財政支出からの卒業」と題した論文を書き(原題は「On graduation from procyclicality」)、その内容をvoxeuで紹介している(Economist's View経由)。論文の主旨は単純で、発展途上国は、景気拡大局面で税収が増加する…

米経済の雇用回復は時間との戦い?

Tim Duyが、CalculatedRiskによる下図を引用しながら、今後の雇用の見通しについて危機感を募らせている。 米経済は、依然として前回のピーク時よりも非農業雇用者数が700万人少ない。今後毎月20万人ずつ職が創出されるという楽観的な予測に基づいても、前回…

製造業フェチは誤りか?

Economist誌で、シーメンスのスポンサリングの下、製造業の重要性に関する討論が展開されている(Mostly Economics経由)。 本ブログでもこれまで経済発展における製造業の重要性を訴える論説を幾つか紹介してきたが(例:ロドリック、Interfluidity+ロドリ…

ユーロ危機へのチェコからの教訓

チェコの中央銀行総裁Miroslav Singerが、自国の経験を基にユーロ危機について考察している(Mostly Economics経由)。 ロンドンでの6/28講演で、Singerはチェコに関する意外に知られていない4つの事実から話を始めている。 チェコは東欧ではない。プラハは…